第七週:十六夜月と一身上の都合(水曜日)
ピー、ガガガ。
と云う使い古しのマイク特有の嫌な音がして、
『あー、それでは――』と話す與田老人の声が広場中に響き渡った。『先ずは医療提供体制じゃが――』
すると会場の奥の方から、
「あのー、それならーー」と、小柄で小太りの男性が右手を上げながら、「うちの診療所に新しく21BとFX7の医療ドロイドを入れましたーー」と大きな声で叫んだ。
そこで老人は、
『おお、ならワンパに襲われても大丈夫じゃな――』と男性に返すと、手にした「決闘事前チェックリスト (全銀河共通版)」のひとつ目の項目にチェックを入れた。『それでは次に、決闘の場所じゃが――』
*
さて。
昨日も少し書いた通り、一般的な決闘といわゆる戦場での対決や闘技者間の戦いは区別されなければならない。
と云うのも、「戦場での対決」は国家間・惑星間が勝手に起こした戦争が原因の謂わば偶発的な闘争であるし、「闘技者間の戦い」は100m走やギャラクティックテニスと云ったスポーツと同じ競技であり、闘争相手に対する恨みや憎しみを原因とする決闘とは明らかに違うからである。
が、まあ、生きとし生けるものは皆バカなのでもあろうか、実際に戦いを行う者たちの多くが、戦いを重ねるに連れ、憎くもない相手を憎んだり、心底殺したいと想っていた相手を愛してしまったりすることもあるようで…………本当にバカなんじゃないだろうか?
*
「あなたの気持ち分かるわ、シャーリー」と、女友達の一人が言い、
「あのバカにはガツンと言わなきゃダメ」と、別の女友達が言った。
するとその背後から、
「じいさんに似たのかねえ……」と、美貌の老婦人――フラウスの祖母が少女に声を掛けた。「あたしが許すからさ、ガツンと叩きのめしちゃいな」
(続く)




