第六週:仔馬と大剣(金曜日)
ヒュ。
と、広場のはるか後方からひと振りの大剣が舞台上のフラウス目掛け投げられた。
「きゃあ!」と云う若い婦人の悲鳴が聞こえたかと想うと、「フラウス!逃げろ!!」と叫ぶ老人の声が会場中に響いた。
この悲鳴と忠告にフラウスが目を遣ると、そこには今まさに我と我が身に向けられた古式ゆかしきマルテンサイトの大剣が大きく弧を描き墜ちて来るところであった。
もちろん、この悲鳴と忠告に反応したのは彼だけではない。広場の群衆たちはグウィンギルゴに割られたメルロワ海の如く二つに分かれ、舞台の楽人たちもテツツイヨウワイセアカゴケグモの子を散らすように逃げ惑う。
そうして――、
「まあ、待て」と、手にした杖でサン=ギゼの動きを止めながら緑の老人が言った。「――これも祭りの楽しみよ」
*
パシッ。
と書くよりは「ほぼ無音に」と書いた方が正しいのかも知れないが、投げ付けられた大剣の柄の部分を、フラウスは苦も無くつかむと、その勢いに逆らわぬよう、その勢いが自然に失われて行くまで、舞台上で…………そう。まるで舞を舞うが如くに、剣とともに舞って舞わった。
そんな彼の動きに会場の皆はいつの間にか目と心を奪われていたが、緑の老人とサン=ギゼ、それに剣を投げ付けた当の本人だけは、そのような感情とも感慨とも無縁のようであった。
*
「我が名は!シャーリー・グラウコピス・ウェイワード!!」
と、静まり返った会場内に、ひとりの少女の悲壮な大音声が響き渡る。
「フラウス・プラキディウス・ランベルト!我が始祖スクトゥム・エイジス・ウェイワードの名に掛けて!汝に決闘を申し込む!!」
(続く)