第六週:仔馬と大剣(火曜日)
「ぎ」と、サン=ギゼが言い、
「皇帝は関係ない。偶然に偶然が重なったまでじゃ」と、“先生”が応えた。
「お」
「じゃから、武術の“ぶ”の字も教えてはおらんよ。踊りだけじゃ」
「し」
「もちろん、基礎は我らが歩法と体捌きじゃからそれなりの訓練にはなろうが、それを言い出したら、お前らのところは踊りも歌も下手くそな奴らばかりじゃろうが」
「で」
「じゃからアイツは拳も脚も組みも器術も擒拿も何も知らんよ。そんなことをしたら、ワシがあのバアさんに殺される」
「む」
「戦バカのお主らには分からんかも知れんがの、この世の中には戦以外にも身体を動かす術はあるものよ。どうじゃ、踊ってみるか?」
するとここでギゼは、「い」と言ったまま顔を赤らめて黙ってしまった。
「ほっほっほ」そんな彼の様子に“先生”は笑うと、「よいよい。祭りの楽しみは他にもあるて――」と言って、持っていた杖でギゼの尻を叩いたが、なるほど、ギゼほどの手練れをしても避けれらない太刀筋であった。
*
カカンカン、カカンカン、カン!………
カカンカン、カカンカン、カン!………
と、先ずは舞台中央の三人の女性が各々二本の木片を打ち鳴らし、それに続くように、
ンッダダ、ッダ、ンッダダ、ッダ、
ンッダダ、ッダ、ンッダダ、ッダ、
と、舞台四隅の男衆が肩に担いだ大振りの太鼓――形はメルトスの鼓によく似ている――を威勢良く叩き始めた。
空には地球で言う十六夜月が見え始め、里人たちは口々に歌い踊り、里の素人楽団がそこに音を乗せて行く―― 《ション=ロォン祭》の始まりであった。
(続く)




