第六週:仔馬と大剣(月曜日)
『この年のチョアン=リーの春祭りは、近年まれにみる晴天に恵まれた』
と、この土地の風土記には残されている。
『空気は澄み切り、まるで水のように里の通りや広場の中を流れ、街頭たちはみなレシャンモミやチャナンナラ、それにウーシャンプの枝で包まれ、本当にそこいら中が海の底の都のように見えた――』
と、こちらは、その夜その場に偶然居合わせた旅の童話作家の日誌からだが、なるほど、まるで夢かおとぎ話の中のような一夜だったことが、この作家の筆致からも伺えるが、では、この夜の 《ション=ロォン祭》で一体何があったのだろうか?
*
「先生!」と、右手を目一杯伸ばして振りながらフラウスが叫んだ。
すると、呼ばれた“先生”――と云うか、身長70cmほどのその生物は、フラウスの方を振り向くと「おおっ」と一声言うが早いか、質素な衣服を纏わせたその緑の身体をピョン。と、ボールのように弾ませ、祭り舞台の上からフラウスの所まで――10mはあるだろうその距離を――軽々と飛び越えて来た。
「元気にしておったか、小僧」と、着地と同時に“先生”は訊き、「もちろんですよ!」と、フラウスは返した。
「鍛錬は怠っていないじゃろうの?」
「もちろん!毎日やってますよ」
「では後で腕前を見てやろう!」と、ここまで言ったところで“先生”は、フラウスの背後に立つ大きな人影に気付くと、「――ほお、変わったヤツがおるの」と、言って笑った。
「あ、そうだ、紹介するね、こちらサン=ギゼさん。帝都まで一緒に来てくれるんだって」
と、先ずは“先生”に向ってフラウスは言い、次に、
「で、こっちが僕の踊りの師匠で、與田先生。本当は礼の先生なんだけど、踊りもヤッバいんだ!」
と、ギゼに向って言った。
(続く)