第五週:無口と兵士(金曜日)
「ああ、はい、聞いてますよ」と、渡された手紙を読みながら、その美貌の老婦人は言った。「一週間ほど前に婿殿からも亜空間メールが届いてましたよ」
すると、彼女の作業机の前に立つ身の丈2mはあろうかと云う大男は、その巨体を縮こませようとも崩そうともせず、直立不動の姿勢を堅持したまま、
「は」とだけ言った。
それからこの老婦人――フラウスの祖母は、その掛けていた眼鏡 (注:彼女の前では間違っても“老眼鏡”などと言ってはいけない)を外しながら男の顔を見詰めると、
「しかし、本当に“インシェン (無口)”な“インシエン (イン=ビトの兵士)”ね」と、言った。「でも丁度良かったわ。その子がフラウスだから、挨拶の手間は省けるわね」
そう言われた大男――イン=ビト兵が一人サン=ギゼは、老婦人の視線から逃げるように顔を背けると、部屋の隅に立つフラウスの方を振り返り、
「む」と言った。
*
「帝都までの護衛?」と、フラウスが訊き、
「う」と、サン=ギゼが答えた。
「一人でも平気なのに……お母さんかな?」
「む」
「あ、でも、来てくれたのはうれしいんだよ、一人旅って退屈だし」
「う」
「そう言えばイン=ビト兵ってすごいんでしょ?素手で撃ち出す“速檔剣”とか――」
「あ、」
「うん?」
「――アレにはコツが」
「へー、そう言えば友達のシャーリーが――」
「あ、」と、ここでギぜが口を挿み、
「うん?」と、フラウスが返した。
するとギぜは、こちらを振り返るフラウスの身のこなしを確かめながら、
「――師は誰だ?」と、訊いた。
(続く)