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第二部ボーナストラック:鳳と凰(その1)

「君がキム博士かい?」と、少し驚いた顔で、その黒シャツ黒パーカーの老人は訊いた。「想ったより小さいんだな?」


「ええ、まあ、そうですけど――」と、この問いに少々憮然としつつ博士。


 周りが年長者ばかりの中で仕事をしているとよく言われるセリフだが、それでもやはり、そうそう慣れるものでもない。「地球人は成長が遅いんですよ」――特に私の血筋は。


 すると当の老人は、この博士の態度に気付くところがあったのだろう、「ああいや、すまない」と、その長身をぎこちなく折り曲げながら言った。


「“あの”Mrと旅をしていたと聞いてね。壮大魁偉な女傑だとばかり想い込んでいたんだよ」――まさかこんなに可愛らしいお嬢さんだとはね。


 ここは星団歴4264年の惑星シオナ。西銀河帝国帝都ク=アンにあるランベルト三世の宮殿である。


「Mrをご存知なんですか?」と、博士。


 そう言えばこの老人は一体何者なのだろう?三世陛下との謁見には星団の医師が付き添うとのことだったが、その方は確か若い細面の男性だったはず――、


「ご存知もなにも」と、折り曲げていた身体を元に戻しながら老人。「彼とは幼馴染みみたいなものだよ、ミス・キム=アイスオブシディアン――なんだか、おとぎ話みたいな名前だな?」


「……え?」


「あれ?私の自己紹介文に書いていなかったかい?――私も 《時主》の一人なんだよ」


 と、ここで老人は、ハッと気付くと、先ずは自身の皺だらけの手を見、次に伸び放題に伸びた白髪頭を触り、それから廊下の窓ガラスに映った自分の顔とにこやかに微笑み合った後で、


「――ひょっとして、この顔の写真はそちらに届いていないのでは?」


 と、博士並びにその傍らに立つライリー女史&一不定形生物に向けて訊いた。


 ワアッハッハッハ。


 と、老人の笑い声が皇帝向け来客用の広間に響きわたり、「いやはや済まない」と、腹を抱えたまま彼は続ける。


「私もついこないだ生まれ変わったばかりでね。医師団登録用の写真を変え忘れていたよ」


 そう言うと老人は、ワアッハッハッハ。と再び呵々大笑したが、ここで、


「ウォッホン!」


 と云う、宮廷宦官十二人の一糸乱れぬ咳払いが広間の扉向うから聞こえ、それに続くように「御準備整いましたならばこちらへどうぞ」と、これまた宮廷宦官十二人の一糸乱れぬ声が続いた。「陛下がお目通り下さいます」


     *


 さて。


 ここまで辛抱強くお読み頂いた賢明且つ懸命なる読者諸姉諸兄におかれましては、ここで我らが三バカトリオが謁見を許されたランベルト三世なる人物が、この物語の主人公の一人フラウス・プラキディウス・ランベルトその人であることは十分ご賢察頂けていることかと想う。


 では、するとやはり気になられるのは、彼が、《レーテー》を飲んだ後の彼が、この再起動後の宇宙において果して博士のこと――アイスオブシディアンたちのことを覚えているか否か?と云う点ではないであろうか?


     *


「なに?顔が変わっている?」と、宮廷宦官十二人の報告を受けた三世大帝が訊き返した。「――あの馬面の 《時主》ではないのか?」


「はい。今度はどちらかと言うと……イワズミハイイロネズミのような顔になっております」


「まったく 《時主》と云うのは……タイムパトロールの方々は?」


「婦人が一名と少女が一名。それに妙な生物が一匹付いて来ておりますが、こちらは事前の報告どおりで御座います」


「うむ……なら良し。入って頂こう」



(続く)

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