第五週:無口と兵士(木曜日)
星団歴4239年。
「縁があったらまた会えるんじゃないーー?」と、例の“博士”が言った夜から四回目の春を迎えた《女神たちの滝つぼ》には、わずかにではあるが、滝の流れが戻り始めていた。
フラウス・プラキディウス・ランベルトも少しだけ成長し、この滝つぼに来ることも以前のような 《冒険》ではなくなっていたが、それでも、と云うか、だからこそと云うべきか、この滝つぼの景色を見るたびに、あの博士――少女との出会いがまるで夢であったのではないかと想うようにもなっていた。
いや、そもそも何故、自分は彼女のことを憶えているのだろうか?彼女の言った記憶改変装置とやらは効かなかったのだろうか?それとも、祖母のおとぎ話にあったエルのように川の水を飲み忘れたのだろうか?
《ホーライ・カスケード――女神たちの滝つぼ》……それでは、ここに居わします女神たちとは一体?――と、そんな (このお話のカラーとはおよそ似付かわしくない)様々な疑問に彼が想いを巡らしていると、カサ、ガサガサ。と、滝の上で何者かの動く音がした。
その音の大きさから『鳥や小動物ではない』と、フラウスが身構えた瞬間、そこに身の丈2mはあろうかと云う大男が現れ、滝の上でキョロキョロと辺りを見廻すと、懐からメモを取り出し、丹念に見直した上で、また辺りを見廻し、暫く考え込んだ挙句途方に暮れた顔付きになり、うなだれ滝の下を見た――ところで、池の畔にいるフラウスに気が付いた。
そこでフラウスは (よせば良いのにキャラなんだろうね)男に向かって右手を上げると、(よせば良いのに)軽く微笑んでみせた。
すると男は“ブラックホールにアルファ王”と云った様子で目を輝かせると、9mはある滝の上からフオン。と飛び出し、タン。とフラウスの所にまで降りて来た。
そうして、例のメモを彼に見せると「行き方を」と訊いた。
(続く)