イースターSP:復活祭とビッグバン(金曜日)
星団歴4264年。
三世大帝は、さる長寿命の医師から、二名と一不定形生物のタイムパトローラーを紹介される。
この二名と一不定形生物と云うのは、この年の春に起こった所謂『川崎、生田事件』の関係者であり、この事件に興味を持った三世大帝に事の顛末を説明させるため、件の医師が彼女たちを帝都まで呼び寄せたのであった。
第一夫人コウ=チとその初子の死から早や十四年、皇帝即位後も第二夫人どころか側室・寵姫の類いすら持たぬ三世の周囲では後継議論がかまびすしい時期でもあった。
*
「では、ここに私の孫は居ないのですな?」
と、周囲の壁と扉向うに感じる気配を数えながらランベルト一世は言い、
『ええ、その通りです。陛下』
と、彼我の戦力差を考えながら“エル”が答えた。
『私の相談役が痕跡を辿ってはおりますが、如何せん現在、宇宙は混乱の真っ最中……』
――ワザワザやり合う理由も余裕も無さそうですね。
「混乱?」
『あー、混乱を収束させるための混乱と云うか、収縮と拡大と云うか……ごめん。ジアンくん説明してあげてくれる?』
と、そう言われた“少年”ジアン=ウォは、出し掛けていた1/2サイズのファズソケットをポケットに戻すと、
『少々、長い話にはなりますが……』
と、“エル”と皇帝双方を見ながら言った。
『混乱が無事終わるのを祈りつつお話致しましょう』
*
『――と云うことで、宇宙を再起動させるらしいんだけど、今度の宇宙では、小さな君があのお兄ちゃんを追い掛けないように……引き寄せられないように?しないといけないらしいのよね』
と、植物たちの重石からズリズリズリ。と這い出しながら“シズカ”は言った。
『まあ、本当にそこまでやる必要があるかどうかは個人的には疑問だけどね』
――ま、宇宙が崩壊することを考えれば、念には念をってことなのかも知れないけどさ。
それから彼女は、引き続き自分に狙いを定めようとするオオミヤシの動きに気を付けつつサッと立ち上がると、そのまま博士と小さなアイスオブシディアンの影に隠れた。
そんな“シズカ”の言葉に博士と小さなアイスオブシディアンは、しばらくの間、その氷種黒曜石の瞳を互いに見詰め合っていたが、
クスッ。
と、先ずは小さなアイスが笑い、
それを受ける形で博士が、
ブフッ。
と笑った。
「なんですか?その乙女チックな作り話は?」
と、後ろを振り返りながら博士。
「そんなの、小さな私を追い掛けるための作り話に決まってるじゃないですか」
『…………へ?』
「確かに、ちょっとカワイイ顔してるかなあ?ぐらいには想ってましたけど、宇宙を越えてまで一人の男の子を追い掛けるなんて、そんなバカな話あるわけないじゃないですか――だよね?」
すると、他の宇宙の自分に同意を求められた当の小さなアイスオブシディアンも、
『私が逃げてたのは皆さんが私を追い掛けて来たからです』
と、当然至極のように答えた。
『いや、だから……いままでの話聞いてた?』
「あの“エル”って人の前身知ってます?――コンパルディノスって因業な顔した極悪非道の皇帝ですよ?」
『それは知ってるけど……』
「そのオッサンが小さな女の子追い掛けるのに適当ぶっこいただけですよ」
『えぇ?……いや、でも、…………あれぇ?』
「てか、“想い”とか、そんなポエミーな理由持ち出すのもちょっとキモイですけど」
『で、でも、……宇宙の再起動は?』
「ああ、それは確かに必要なんじゃないですか?これで例の“抜け穴問題”も解決するし――もちろん“抜け穴”が出来て拡がった発端はコンパルディノスのオッサンとジアン=ウォって 《時主》のおじいさんなんで、それはちゃんと責任取ってくれたったことで」
『あぁ……』
と、ここまで言われて“シズカ”も、どうもなんだか納得してしまったのだが、それでもやはりドコか引っ掛かるものがある。
『で、でもさ、もし陛下の言っていることがウソだったとしても、このままだとあのフラウスって子はさ、多分君たちのことを忘れちゃうよ?――それでも良いの?』
と、彼女のこの問いに二人のアイスは、再びその氷種黒曜石の瞳を見詰め合わせると、
『もしその話が本当だったとしたら――』
と、先ずは小さなアイスオブシディアンが応え、
「それこそ、忘れていても想い出すんじゃないですか?」
と、大きなアイスオブシディアンが続けた。
「本当に、縁があるんでしたら」
と、ここでこうして、この言葉に合せるように、宇宙は見事復活を果たしたのであった。
(続く)