新年SP:愛と勘違い(土曜日)
さて。
それから宇宙はどうなったか?
ウォン・フェイと“二人のイゲイ”が残されていた方の 《死者の惑星・ハドルツ》には再び惑星 《ドォーリン》が堕とされ、そこに居た生者や死者を巻き込みながら、その宇宙の 《ホーライ・カスケード》を起動させた。
すると、それと呼応するように、或いは同時間・同空間的に、あらゆる――じゃないか、三つか五つか七つか十一個の宇宙の 《ホーライ・カスケード》も起動。互いに共鳴?共振?を始め、それぞれの宇宙から、それぞれがそれぞれの役割を果たしつつ、まるで滑らかに動く一基のV8エンジンのように、“あらゆる宇宙”の時間を逆転させ始めた。
で、それからまた、長い長い、永遠とも想われるほどに長い長い時間――まあ“無限”ってものがないのは以前にもお話したとおりなので“永遠”ってものも本当はないんだけど……まあそれはいっか――その気が遠くなるほど長い長い時間は、急激にその歴史を遡って行き、その究極の始まりである……“一点”って書いたら間違いになるんだったっけ?…………どうだったっけ?デュさん?
「樫山さんに分からないもんが光の俺に分かるかよ――小張さん分かるか?」
*
「そうですねー」
と、タイムポッドのコントローラーを巧みに操りながら小張千春は応えた。
「と云うか、その辺は未だ誰にも分からないと想いますよ」――時間と空間が始まる前がどうなってたかなんて。「“正確には”って意味ですけど」
「ねえ?」
と、この会話を横で聞いていた佐倉八千代が言った。
「これ、どうなるのかな?」
すると、
「さあ?」
と、この事態に落ち着くためなら乙女心などどこ吹く風……とばかりに目の前に放り置かれた甘味類に手を伸ばしつつ木花咲希は応えた。
「これもいつもの作者さんの考え無しなんじゃないの?」
「ですよねー」
と、ここで樫山の筆の遅さに毎度苦しめられている編集部を代表して坪井西子が何か文句を言おうとしたので、
『そうはさせるか』
とばかりに、このお話の作者は取り敢えず、このポッドに繋がれたままの地球製コンピューター何とか9000に状況並びに事情を説明させることにした。
*
『お待たせ致しました。ミスター樫山』
…………………………は?
『ご質問のス・イゲイ様とウォン・フェイ様の行き先については、この宇宙の7の6倍の位置に存在する宇宙。そこの 《ホーライ・カスケード》内、惑星 《ハドルツ》であると云うことまでは分かりました。が、ただ、その惑星内のどの位置に居られるかまでは――』
ちょ、ちょ、ちょっとストップ。
『はい?どうかされましたか?』
いやいや、なに?今までずっとスさんとウォンさんの居場所を探してたってこと?
『はい?第五十週の土曜日に貴方が――』
あ、いや、確かに頼んだけど、その後この中、もの凄くバタバタしてたよね?
『はい。しかし危険はないものと教えて頂きましたので、私はお二人の居場所探しを――』
は?え?いや、君は機械だか…………“教えて頂きました”?
『あ、こちらの貴方はご存知ないのでしたね』
…………なにを?
『それでは、あちらの貴方たちも繋がりたがっておられますし、モニターに接続致します』
だから一体、何の話なのさ?!
*
と、“この宇宙”の樫山が叫ぶが早いか、彼らの居るコントロールルームのモニター――その中でも大きめの物から順に十六個のモニターが、その画面を切り換え、“それぞれの宇宙”から“自分たち会議”に参加していた“十六組の樫山たち”を映し出した。
*
…………………………これは?
『ご覧のとおり、様々な宇宙のミスター樫山――あ、もちろん、中にはミスやミセスの貴方も居られますが――さま達です』
……………はあ?
*
と、
まあ、
そんな感じで、
“この宇宙の樫山”の脳みそがパニクり掛けていることが分かったのであろう、ある宇宙のミス樫山と彼女と一緒に居た大鼻大耳の男性――Mr.Blu‐Oが、
「それでは全員揃ったようだし」
と、マイクとイヤホンの調子を確かめながら言った。
「改めて説明をしておこうか」
*
そう。
つまり、話はこう云うことだ。
先ず“エル”と“少年”の 《女神たちの滝つぼ》を利用した宇宙の再起動計画があった。
「これはアイディアとしては大変良かった――“クラック”の修復としては申し分ない」
で、次に、フラウスの記憶と魂を改変し、アイスオブシディアンとの“繋がり”を消す。
「これもまあ、若い二人には気の毒な気もするが、宇宙の修復と云う意味ではアリだな」
で、見事“エル”と“少年”は複数宇宙の 《ホーライ》を起動、時間は逆転を始めた。
「が、ここがマズくて、彼らは大きな勘違いを二つしていた」
そう。どうも彼らは、『始原の状態にまで遡らせれば、その反動で宇宙は再び膨張に転ずる』と、勝手に想い込んでしまっていたようなのだが――、
「時間も空間も関係性で成り立っているだろ?なら始原状態で安定してしまうことも有り得るし、実際、私の計算結果はそうなった」
――このままでは“大爆発”は起こらない。
「で、更に彼らはまた別の勘違いもしていたんだが、それは――」
と、ここでMrが、その大きな耳と鼻を真っ赤にして黙ってしまったので、横にいたミス樫山が代わりに
「愛の力を見くびってたのよね?」
と続けた。
(続く)




