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新年SP:愛と勘違い(金曜日)

 星団歴4218年。


 カイベディック星系第三惑星マルクル。衛星軌道宇宙ステーション 《深探索》。


『これも運命か――』


 と、帰星途上の兵士は想い、軍支給のフェイズシフターをその口中で起動させようとした瞬間。その窓の向う 《妣国神殿》の真横辺りに一羽の朱色の鳥が『ぴいぃっ』と鳴いて行くのが見えた。


 ――が、これはもちろん、ある少女の魂であった。


 そうしてまた、丁度その日のその時刻、彼の故郷の惑星で、彼の細君は、その家の窓から朱色の鳥が宙に鳴いて行くのを見た。


 ――が、これももちろん、ある少年の魂であった。


     *


「それでは改めてお聞きしますが――」


 と、その青く碧く蒼い瞳でファウスティナ夫人を見詰めながら、大耳大鼻の男性は訊いた。


「侍女の方以外に、その鳥を見られた方は居られましたか?」


 すると、そのどこか哀し気な男の瞳に夫人は、想い出せない・想い出すことのない記憶を想い出したのだろう、一瞬、すべての時間が止まった――いや、“すべての時間が同一にそこにあった”ことを想い出すと、


「あの――」


 と、一言だけ呟き口を閉じた。


 が、男性にはそれで十分であった。


「惑星シャン・ディ。泰坦族の足跡――そこでフラウス君に会ったのですね?」


 そう男性は言うと、懐から例のラチェットレンチを取り出し、


「失礼致します」


 と言うが早いか、ジジジジジ。と夫人の身体を走査した。


 なるほど、これで謎は解けた。


 が、しかし……いまの私に出来ることが何かあるか?


     *


「それからエルはどうなったの?」


 と、幼い少年が訊くと、


「エルがさっき河の水を飲むことを禁じられたのは憶えてる?」


 と、その祖母は応えた。


 それから、この問いに少年が無言で頷くと彼女は、


「彼は、ほかの人たちがまるで流星の様に彼方此方へと飛んで行くのを見送った後、また彼らと同じように泥のような眠りに落ちたの」


 と、続けた。


「――そうして不意に目を開けると、そこはまだ真夜中で、彼は、次の日の朝に自分が火葬されるための薪の上に横たわっていることに気付いたの」


「それ、本当のお話?」


 と、再び少年は訊き、


「すべてのお話は、すべて本当にあったことなの」


 と、祖母は答えた。


「おやすみなさい」


     *


「探していた?」


 と、フラウスが訊き、


『“引き寄せられていた”の方が正しいかも知れないけどね』


 と、“エル”は答えた。


『それで色んな宇宙を行ったり来たり――』


『君が居ない宇宙もあれば、君が既に居ない宇宙にも――』


 と、ここで“少年”が“エル”の台詞を邪魔するように言った。


『だが、君を……“君を探していた”のは明らかなようだ』


 ――そろそろ“紅茶”が効くころでは?


『なので、今回の“再起動”では、それを取り除いておかなければならない』


 と“少年”。


「…………え?」


『君と彼女のつながり――でなければ、また同じことが起こる』


 そう“少年”が言い終わるが早いかフラウスは、その場に突っ伏すと、まるで泥のような眠りに――忘却のための眠りに落ちた。


『うん』


 と、満足そうに“少年”


『後は 《地球》の“シズカ”さん達が“穴”に入れば、《ホーライ》は起動出来ます』


     *


 ダダンダ、ダンダン。


 ダダンダ、ダンダン。


 ダダンダ、ダンダン。


 ダダンダ、ダンダン。


 と云う緊張感があるのかないのかよく分からないリズムが木造小屋の中で響き、


「これ、本当に大丈夫なんですか?」


 と、ストーン女史は訊ねた。


 ……が、まあ、彼女が心配するのも無理はないだろう。


 なにしろ、博士と自分のタイムブレスレットが旧式タイムベルトと合奏を始めてから既に30分以上が経過しているのである。


 ――古臭いSFドラマみたいなテーマでね。


「捜索に時間が掛かっているだけですよ」


 と、博士は言うが、


「よろしければ、お茶のお代わりでも?」


 と、この家主の少年のセリフももう数回目で、


「外デヤラナイカ?」


 と、Mr.Bが気を利かす気持ちもよく分かる。


 ――なので、


「そうしましょうよ――」


 と、ストーン女史はスックと立ち上がろうとした。


 瞬間――、


     *


 グォォォオン。


 グォォォオン。


 と云う奇妙で不愉快な音が何処からともなく聞こえて来て、二人と一不定形生物を 《シュールー》からまた別の場所へと移動させた。


     *


“度々すまんな、ヒューマノイドのメス。”


 と、大小多様種々雑多の種や木の実や枝や草に纏わりつかれ地面に突っ伏している“六祥・シズカ”向けて 《ケヤキのボブ》はテレパシッた。


“こちらの御仁がご所望でな。”


 すると、その御仁――西銀河帝国皇帝ランベルト一世は、少々戸惑った顔で、


「なるほど」


 と言った。


「君が“別の宇宙”とやらのシズカ君なワケだな」


『そっちは大帝?』


 と、息も絶え絶えに“シズカ”


 ――私の所とは顔が違うわね?


「ま、詳しいことは“穴”向こうの方々に訊くとして」


 と皇帝。


 ――イケメンであろう?


「そこのアイス君と一緒にここに居てくれ」


『一緒?』


 と、驚いた顔で“シズカ”。


『ダメよ!この子も連れて行って!!』


「“穴”は狭く戦闘になれば巻き込んでしまうからな、連れては行けんよ」


『そう云うことじゃないのよ!』


「確かに、君の任務の邪魔にはなるが、私はその子と孫を連れて帰らねならんのだよ」


『だから――』


 と、“シズカ”が次の言葉を発しようとした時、


 クォーーォン。


 と、“穴”が目に見え閉じ始めたので皇帝は、


「いかん。行くぞ」


 と言って、葉来と伴に“穴”の中へと進んで行った。


「話はまた訊く」


     *


『《地球》との“穴”に二人が入りました』


 と、《死者の惑星》で“少年”が言い、


『なら、起動しますか』


 と、傍らで眠る少年を見詰めながら“エル”は応えた。


『別れは早い方が良いわ』


 が、しかしこれは、“少女の身体を奪ってしまった”彼女の何度目かとなる判断ミスであった。


『承知しました』


 と“少年”は応え、手元の石板で 《滝つぼ》を起動させた。


 が、直後――、


     *


 グォォォオン。


 グォォォオン。


 と云う奇妙で不愉快な音が何処からともなく聞こえて来て、フラウスを 《死者の惑星》からまた別の場所へと移動させた。



(続く)

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