新年SP:愛と勘違い(火曜日)
星団歴4239年。
惑星ディアン=スウ。
フェンジャン、チョアン=リー。春祭りの夜。
「お母さん」
と、一人の少女が、シャーリー・ウェイワードが脱ぎ捨てた青色の春衣装の飛んで行く先を傍らの母に伝えようとしていた。
が、この時母親は、目の前で繰り広げられている若き二人の闘いから目を離せず、そのため彼女と彼女の娘は、一羽の鳳が西の宙へと飛び去るのを見過ごしてしまうことになった。
そして、それはある少年の魂でもあった。
*
「では、我々もそのシェルターとやらに入れて頂くことにしましょう」と、ウォン・フェイ。「イン=ビト王とは面識がありますから、警戒はされないでしょう」
――まあ、辿り着けるか、間に合うかは、また別の話ですが。
と、ここでフェイは、その見えぬ目で宙を見上げると、そこに浮かんでいるであろう惑星 《ドォーリン》が新たな降下のため、周囲のフォースフィールドの位相変換を始めている様を観じていた。
「間に合うかな?実際?」と、フェテスが訊いた。「と云うか、シェルターは保つかな?」
彼の目の前では、先ほどの惑星衝突の影響が引き続いており、遠くの山々が津波のようにうねり蠢いているのが見えていた――。
*
…………え?はい?何か言われました?……『何か流れがおかしくないか?』?このフェテスたちのシーンですか?
…………あっ、そうか。
えーっと…………。
*
さて。
と云うことで、第一部から読まれている方の中には、このシーンに違和感を覚えられた方もいるかも知れないので、以下、一応の補足である。
と云うのも、第一部でお見せした 《ハドルツ攻防戦》においては、
① 《ドォーリン》の降下を防いでいた死霊たちの柱が折れる。
② 《ドォーリン》と 《ハドルツ》二つの惑星が衝突する。
③ 《ホーライ・カスケード (進化版)》が起動を開始。
……と云う流れだったのだが、いま皆さんにご覧頂いているお話では、②の後に、
②‐b 《ドォーリン》の再浮上。
……と云うシーンが挿入されているからである。
なるほど。『流れが違うじゃないか?』と言われれれば確かにその通りなのだが、“流れ”が違うのはそもそもその通り――と云うか、当り前のことで、この 《ハドルツ》は第一部でお見せした宇宙の 《ハドルツ》とは違う宇宙の 《ハドルツ》だからである。
*
『宇宙を引き寄せるだけなら 《滝つぼ》も一つで十分だったのですが――』と、また別の宇宙の 《死者の惑星》で少年が言い、
『“再起動”には一つじゃ足りなくてね』と、彼を庇う口調で“エル”が続けた。
すると、
「“再起動”?」と、手元のカップに手を伸ばしながらフラウスが訊き、
『そうよ』と“エル”は応えた。『宇宙を――“すべての宇宙”を再起動するの』
*
「師匠!起きて下さい!ス師匠」
と、ス・イゲイの頬を叩きながら――本当ならその禿げ頭を叩きたいところだろうが――フェイが言った。
「地下シェルターのところまで走りますよ!起きて下さい!」
がしかし、先ほどのフェイの一撃のせいであろうか、それとも例のポッドにあった例の酒のせいであろうか彼は一向に目を覚ます気配がなく、代わりに――、
『お、お、お主は……?!』
と、イゲイの横で仲良く (?)気絶していた“守帥・イゲイ”が先に目を覚ました。
『生きておったのか!』
そう彼は叫ぶと、《アナイサス戦役》で命を落とした友人――にそっくりなそのコクン頭の男に抱き付いた。
『せ、戦死、戦死公報は、よ、読ん、読んだが――』
と、目からは涙、鼻からは鼻水、口からは涎を垂らしながら (……汚いなあ)、“守帥・イゲイ”。
『ワシは!ワシは!お前が生きていると!信じておったぞ!!』
オーイ、オイオイオイ。
と、抱き付かれたフェイも傍らの少年少女も引く感じで彼はロヴェの滝もかくやと云う程の涙を流し――、
※編者注:“別の宇宙”のフェイとイゲイにどんな事件があったかはまた別の機会に回させて頂きます。――ページが足りないので。
この師匠の大声と涙に、かどうかは分からないが、もう一人のイゲイも目を覚ました。
「ナビ=フェテス君、シャ=エリシャ君」
と、初めて会うハズの少年少女の名を彼は呼んだ。
「フェイから 《最大剋星龍捲風》の話は訊かれたかな?」
――もう少しで呼ばれますぞ。
(続く)