クリスマスSP:フラウスとフラウス(土曜日)
縮小?! 宇宙が? …………そんなこと起こるワケないし、仮に縮んだとしても肉眼で認識出来るなんてこと――
「でもこれ、星たちがもの凄い勢いで近付きあってるじゃねえか?!」
いや、でも……ナツ君?!
『………………………………』
ああ、もう! フリーズしたままだ!!
「どうする?惑星とか避けれるのかよ?!」
ああ、そうか、すべての操作をナツ君に任せてたから――小張さん?!
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「私に訊かれても分かりませんよ!」と、例の洗濯ロープを歩廊の手摺りに結び付けながら小張千春。「大学では量子重力理論も習いましたけど」宇宙が実際どう終わるか始まったかまでは未だ議論の分れるところで――、
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違う違う!ライリーさんのボックスに乗ったことありましたよね?――だったら、このポッドの運転も出来ませんか?!
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「運転?!」と、重力コントローラーの異常停止 (?)で浮かび上がり始めた身体に戸惑いながら小張。「ナツさんがフリーズ?――出来ないことはないですけど」
……なんで私が運転出来ると想ったんですか?――きっと興味本位と見様見真似で覚えたハズだ?…………なるほど。流石は作者さんですね。
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「再起動?」
と、少女に勧められるまま目の前の円卓へと向いながらフラウス。
「この宇宙を?」――僕の聞き間違いだろうか?
『聞き間違いじゃないわ』
と、ボーンチャイナのカップを彼の手前に置きながら“エル”。
『正確には“すべての宇宙を”だけどね』
彼女のこの言葉に、フラウスは更なる質問を重ねようとしたが、それを遮るように、
『そもそもは私の――“私たちの”計算ミスなのです』と、“少年”が続けた。
「ミス?」
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「理屈は簡単だよ。君は、君の選んだ『別の宇宙』へ行く。その後、私があちらの君の魂なり記憶なりをこちらの宇宙に連れて来て、こちらの 《死者の世界》へと送る」
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『そう。先ずは、この 《女神たちの滝つぼ》を利用した宇宙同士の接近――これは問題なく成功しました』
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「持ち主不在の君の身体には陛下の魂が入り、“あの男”との旅を続ける。君はあちらの宇宙で幸福に暮らし、死者と生者のバランスは崩れない」
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『そうして次に、我々の取り引きに応じてくれる“キム=アイスオブシディアン”の発見。これにも宇宙により差はありましたが…………一応、成功』
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「あちらの君には多少気の毒かも知…………そうだな、宇宙を選ぶ時にはその辺も考慮しよう。希死念慮のある君を選ぶとか」
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『結果“私たち”の居ない―― 《女神たちの滝つぼ》のない――宇宙が消えるケースはあったものの、それらは想定範囲でしたし、そう云う些細な部分を除けば、概ね計算通りに事は運ばれました』
と、ここで“エル”は少年の話を止めると、フラウスに目の前の紅茶を飲むように勧めた。
『だけど、いつでも計算違いは起きるものでね』
『私も知らなかったし、彼も気付くのが遅れちゃったんだけど――逃げ出した“あの子”が色々な宇宙を行ったり来たりして――ねえ?ちゃんと飲んでね?そのお紅茶――どうも、君を探していたらしいんだな』
(新年スペシャルへ……続く)




