クリスマスSP:フラウスとフラウス(木曜日)
ある時三世は、シ=ジャウの県令と懇意であったフゼン県の人コウ=リョの宴席に使いとして参った。
もちろんこの時も、彼は自身の素性を隠してはいたのだが、このコウ=リョは好んで人の人相を観るくせがあり、この使いの青年の相貌を見ると、すこぶる鄭重に奥にみちびき入れ、上座に座るよう促した。
この想外の出来事に三世は場を辞そうとしたが、余りにも強くコウ=リョが引き止めたため、結果、酒宴が終わって後もそこに留まることとなった。
「私は若い時分から人相を観るのが好きで、多くの方々を観て来ましたが、貴方の人相に及ぶ者は一人もありませんでした」と、リョは言い、続いて、「私に生みの娘が居りますが、是非、貴方の身の周りの世話をさせてやっては下さらぬか?」と、言った。
――これが後の三世大帝の第一夫人コウ=チである。
*
『嬢ちゃんには分からねえだろうが――』
と、懐から出した厚手の布で手を拭いながらイグ=バリが言う。
『そいつは筋が良いし、拳には暗いものがある』
「筋が良いのは知ってます」
『だったら黙って見てろ』
「殺されそうな友人を黙して見てはいられません」
『“天命”があれば生き残るさ――』
「あなたが何もしなければ生き残るわ」
『何もしないなんてことが出来るか、ソイツを“男”にするのは俺の仕事だ』
「…………え?」
と、シャーリー・ウェイワードが男の言葉の不明さに気を逸らされた一瞬、彼女の右の脇腹をすり抜けるようにして隻腕となったロン=カイが、バリ目掛け飛び出して来た。
『やはり、嬢ちゃんには分かんねえよ』
と、ロンの左の蹴りを左手の人差し指と中指で止めながらバリは呟いた。
『これは――“男の世界”の話だ』
それから彼は、その人差し指と中指をスッと横に離すと、そこに小さな螺旋状の渦のような物を創り出し、少年の身体に流し込んだ。
一瞬――
よりも更に短い時間で、少年の身体はその危機を感知すると、自身に流れ込もうとする渦を踏み台に大きく後ろへと飛んだ。
が、その飛翔に微笑みを覚えながらバリは、
『これを喰らって生きてたら――』
と、左右の腕を交差させつつ言った。
『“男”だって認めてやるよ』
直後、バリを中心に周囲を轟音が襲い、彼らの周囲にある分子と云う分子、原子と云う原子が、通常よりも――ほんの取るに足らない幅でだが――僅かに大きく振動した。
そうして――、
『ラウド・ヘイラ― (闇に生きる)』
と云うバリの言葉に合せるように、それら分子や原子の発した通常よりも大きな熱が塊となり、真っ赤に焼かれた大岩の如くロンを襲った。
*
「それではやはりイン=ビト王が?」
と、少年ににじり寄りつつウォン・フェイは訊き、
「そうだと想うよ」
と、彼から少し離れつつナビ=フェテスは答えた。
「木の上から見ただけだけどね」――あんな化け物染みた技、他に出せる人いないよね?
「是非ご挨拶に伺いたいが、王は何処に?」
「何処にって……」
と、フェテス。
「エリシャ分かる?」――そんな暇はないと想うんだけどな、実際。
「多分、みんな一緒にシェルターとかじゃないの?」――みんなそんな暇ないもんね。
「そうか、ではそのシェルターに――」
と、ここでやっとフェイも気付いた。
「……シェルター?」――何か危険なことでも?
「多分だけど――」
と、二人同時に宙を見上げながらフェテスとエリシャは答えた。
「もう一度惑星が堕ちて来るんだと想うよ」
(続く)