クリスマスSP:フラウスとフラウス(火曜日)
三世大帝の名である 《フラウス》は、ファウスティナによって付けられたとされる。
これは彼女の故郷の神話に出て来る不死の鳥の名で、一説によればパーセルヒラドライチョウの始祖とされる鳥だそうである。
三世大帝の髪は夏季のパーセルヒラドライチョウのような褐色で、壮年を過ぎてからは冬季のそれと同じ純白へと変わった。
手足は身体に比して大きく、まぶたには生まれつき朱が入っていた。
彼は寛仁で他を愛しみ、施しを喜んでは物事にこだわることがなかった。
いつもゆったりとしており、その出自もあってか、宮廷内の後継者争いからは距離を置き、成年を迎えると、シ=ジャウの役所で見習い役人のようなことを始めた。
が、ただこの時期、一世大帝の体調不良もあり帝国内の政務実務は秩序を欠き始めており、廷中の役人連中とは剃りが合わなかったようである。
*
「あーでもないし、こーでもないし」
と、例のラチェットレンチを振り回しながら大耳大鼻の男性は何やら作業をしていたが
――直後、
ゲゲゲ、
レレレ、
ラララ。
と、今まで聞いたこともない奇妙な音を立て、
パポッ。
と、マヌケな感じにレンチが爆発してしまった。
「はあ?!」
と、男性は7~800年の人生の中でもトップテンには入るであろう驚きに声を上げると、
もう一度
「はあ?」
と、同様の声を上げてから、隣に居た青い光の方に向けて、
「――何故だ?!」
と、訊いた。
「ジイさんに分からねえことがオレに分かるかよ?」
と、問われた青い光は素っ気なく応えたのだが、
「よっぽどアンタの邪魔をしたい何かが邪魔してんじゃないのか?」
と、何気に核心を付くセリフを吐いて、この物語の作者を一瞬ドキリ。とさせることになった。
「時間の流れとかお話の都合とかさ――」
*
『“シズカ”さんが?』
と、“エル”が訊き、
『“二人”を見付けたようです』
と、“少年”は答えた。
『――が、なにやら協力的な様子で、先ずは我々の話を聞きたいのだそうです』
『あら、意外ね』
『祖父よりは父親似なのかも知れませんな』
*
「私、キム=アイスオブシディアンと申します」
と、未来の女王陛下に向け博士が挨拶をした
――次の瞬間。
博士とストーン女史、それにMr.Bの二名プラス一不定形生物は、菜の花畑を見下ろす小高い丘の上に居た。
そうして――、
「ここは――?」
と、先ずは博士が言い、
「これが……“ジャンプ”ですか?」
と、ストーン女史が驚きの声を上げたのに続いて、
「オイ!」
と、Mr.Bが二人に後ろを見るよう促した。
「ぼっくすガ消エチャッタゾ?」
そう言われて博士も女史も改めて周囲を見回したが、そこには木造の小さな小屋と丘の下に広がる菜の花畑があるだけで、博士のタイムボックスもなければ、彼女たちをここに“ジャンプ”させてくれたはずのハチ達の巣もなかった。
ぽたぽたぽたぽた……ぽた。
と、博士のエンブレムチャームが地面に落ちる音がして、どこからか小さな歌声が聞こえて来た。
*
「なるほど、“植物の楽園”とはよく言ったものだ」
と、進む先の地面を確認しつつ皇帝が言った。
「道の名残りらしいものもあるにはあるが、全て植物たちに覆われておる」
――いやはや、エシクスのエルテス坊やが見たら狂喜するような眺めだ。
『聞いた話だと、惑星が破壊されるとかで動物たちは皆逃げ出したらしい』
と、進む先に奇妙な跡を見付けながら葉来が応えた。
「“破壊”?――ここにあるぞ?」
『「どうせ消えてなくなるなら」ってんで、盗んで来たらしいぜ』
(続く)