クリスマスSP:フラウスとフラウス(月曜日)
三世大帝はペイエのフェンジャン、チョアン=リーの人で、姓はランベルト氏、字はプラキディウス、名はフラウス。父はコンスタンティウス四世であり、母はその第三夫人ファウスティナであった。
かつてファウスティナが惑星 《シャン・ディ》に逍遥した際、さる巨人の足跡の中で昏倒し、神に会った夢を見た。
この時、天地に急激な闇が拡がり辺りを激しい雷電が襲ったので、同行の侍女が足跡の中を覗いて見ると、一羽の凰がファウスティナの上にいるのが見えた。
そうして、そのうちファウスティナは身籠り、三世大帝を産んだ。
*
「こ、ここ……ぼ……オレ、の、いく……さば……です」
と、ロン=カイは言うと、シャーリーに下がっているよう手で合図した。
と、この少年の覚悟と気迫に、宇宙は違えど遺伝子レベルで共鳴するものを感じたのだろう“イグ=バリ”は、
『そうだぞ、坊主』
と、口の辺りを僅かに微笑ませると、
『それが、騎士ってもんだ』
と言った。
――やはり、お前は俺に似ている。
『ラフ・アンド・レディ (金剛石は傷付かない)』
そう呟いて、先ずは地を蹴り抜いたのはイグ=バリであった。
彼が大地に送った所謂“勁”のようなものは、最初は小さく細く、しかしそれらが緻密な炭素結合のように大地と絡み合いひと繋がりになるに連れ、太く硬く、まるで金剛石の一塊のようにロンを襲った。
が、しかしそれは、いくら“疾風の如く”と評されたバリの技術であっても如何せん初めての衛星、初めての大地である。その速度は、腕を失くし僅かに軽くなったロンが避けるには十分なほどに遅く鈍くなっていた。
『ふん』
少年の逃げる先へと体を変えつつバリは鼻を鳴らすと、
『いまのは俺の失敗だ』
と、その旋回の勢いを衝撃波に変えつつ――、
『クレイジー・アームズ (悪魔の狂想)』
と、先ずは右手の五指の先から、次に左の掌から、身体全てを通し増幅した細かなソニックブレードの束を少年に向け放つと、
『?!』
と、初発の“勁”を避け、次にこの衝撃波の束から身を躱そうとしているロンの元へ――その落下予測地点へ、
ソッ。と、音も立てず、音よりも早く移動した。
『避けて、躱したのは褒めてやるよ』
と、宙に浮かぶ少年の左の耳の穴を――今度は実際の左手中指と薬指で――狙いながらバリは言った
――が、その時、
ガッ。
と後ろからの気配に反応した右半身が、彼を狙っていた少女の左脇腹を蹴り上げた
――邪魔をするなよ、嬢ちゃん。
『折れちゃったかな――』
と、胃の腑から流れ出そうになる自身の血の気配を感じながらシャーリー・ウェイワードは想ったが、それでも再び、その細い身体を男の方へと向けた。
*
「なるほど。すると君たちも突然“ここ”に飛ばされたと云うワケですね」
そう“二人のイゲイ”を近くの木の根に寝かせながらウォン・フェイは言った。
それから彼は、
「時間的には我々が 《サ・ジュジ》から飛ばされたのと――」
と言い掛け、何かの気配を感じたのだろう
「失礼」
と目の前の大木を軽く三回打った。
すると打たれた大木は、その幹と枝をサワサワッ。と揺らすと、その上部に引っ掛かっていた四体のオートマータの抜け殻を、トサトサトサトサッ。と、地面に落した。
「きゃっ!」
と、突然目の前に落ちて来た機械の屍骸にフェテスとエリシャは同時に驚きの声を上げたが、
「あ、心配は要りませんよ」
と、フェイに落ち着くよう言われた。
「既に動きを止めています」
――魂がない?“センチネル”か?
それにこの痕は…………《最大剋星龍捲風》?
(続く)




