第五十一週:裂け目と繋がり(金曜日)
えーっと。
ま、そんなこんなで……、何だったっけ?…………ああ、そうそう。
例の 《女神たちの滝つぼ事件》 (第一部参照)で無数の宇宙が近付き合ったりぶつかり合ったり壊し合ったりしたせいで“あらゆる時間のあらゆる空間”に出来た無数の“限りなく無限に近い小ささの亀裂”について。
その“亀裂たち”は、亀裂同士で繋がったり繋げられたり拡張されたり、あっちの宇宙やこっちの宇宙を行ったり来たりとか過去や未来を行ったり来たりとか行き当たりばったりとかしながら“迷路で出来た迷路”“過去と未来が入り込み更には星々までをも取り込んでしまった迷路”のようなものを作ってしまった――らしいんだよね、よう知らんけど。
で、まあ、これをそのままにしておく――と云うか、迷路の拡がるに任せておいたり、宇宙間で情報やエネルギーのやり取りがされてそれぞれのバランスが崩されたりすると、一つか二つ、悪くすると全ての宇宙が連鎖反応的に崩壊してしまう――かも知れないらしいんだよね、いや、本当、その辺よく分ってないんだけど。
で、えーっと……、ああ、そうそう。
例の“少年”にしても“エル”にしても、実はこの辺りのことはよく理解していて、色んな宇宙から色んな騎士――“イグ=バリ”とか“葉来”とか“六祥・シズカ”とか――をスカウトして 《死者の惑星》に連れて来る際も、代わりとなる情報やエネルギーを“元の宇宙”に置いて来てたし、“他の宇宙”に行くときも人数は最小限にしていた。
で、そんな事を (彼らの体感時間で)四年ほどやっていたある日、“少年”が“ある異変”に気付いたワケだ。
*
『宇宙が壊れ掛けてる?』
『はい。各宇宙を行き来する何者かが――意識的か無意識的にか、少しずつ情報やエネルギーのバランスを崩しているようなのです』
*
『ごめん。助かったわ』
と、頸に巻き付いていた最後のモミジヅタを外しながら“シズカ”は言った。
が、直後――、
ゴヂン。
と、何処からともなく飛んで来たオオミヤシの種 (大)が、彼女の頭に当たり、
『大丈夫ですか?!』
と、その音の大きさと鈍さに驚いた“小さなキム=アイスオブシディアン”が彼女に近付きつつ訊いた。
すると訊かれた“シズカ”は、急いで左の手を開くと、少女に対し、少し慌てた口調で、
『大丈夫よ』
と言った。
『近付かないで――』
*
で、まあ、それから、《時主》の技術を使った“少年”の調査や、“エル”が騎士のスカウトを通じて培った情報網なんかを駆使して、その“各宇宙を行き来する何者か”を特定することまでは出来たんだけど――、
*
『困ったのは、“彼女”一人だけでは元に戻せそうにないと云うところですな』
『……どう云うこと?』
『“あの少女”との繋がり――“結”が最も強い人物も必要なようです』
*
「じゃあ、今日は戦ったりはなし?」
と、フラウスが訊き、
『ま、この前もあの後叱られたんだけどね』
と、周囲の植物 (の敵意)に注意しつつ“シズカ”は答えた。
『悪ノリし過ぎだって』
――今回は更に“そんな場合”じゃなさそうだしね。
*
『“結”?』
『はい……ああ、陛下が以前おられた時代ではまだでしたかな』
『……なんの話?』
『西銀河帝国皇帝ランベルト三世とキム=アイスオブシディアンの繋がりの物語ですよ』
(続く)




