第五十週:観察と鐘の輪舞(金曜日)
「どうかしたかね?ミス・ストーン?」
と、鷲鼻の男性が言った。
「私の顔に何か?」
この問いに対してストーン女史は、彼の質問には答えず、彼の顔を見詰めたまま、
「ごめんなさい、Mr.B」
と、傍らのBに向けて言った。
「頬をつねってくれない?」
「ハ?」と、Mr.B。「――ナンデ?」
「いいから!早く!」と、女史。
「……マ、良イッテ言ウナラ」
そうしてBは、ギューッ。っと、力任せにストーン女史の頬を引っ張ったが、直ぐに、
「痛い痛い痛い痛い! 離して!!」
と言う彼女に弾き飛ばされたので、
「ナンナンダヨ、ツネロトカ離セトカ忙シイ」
と、苦情を訴えたが、
「――痛い?ってことは夢じゃないのね?」
と、自分の世界に入り込んでいるストーン女史からは無視された。
それからストーン女史は、
「あの、すみません」
と、男性の方ににじり寄りながら訊いた。
「お住まいはロンドンでは?」
「ああ、随分と帰っていないがね」
と、男性。
「貴女もイングランド……にしては少々……ご家族かご親戚にスコットランドの方は?」
「はい。曾祖父の代にロンドンに移って来て」
「なるほど、アクセントにスコットランド訛りがあるのはそのためですな。――あとは、その見事な赤毛」
「あ、ありがとうございます」
と、頬を赤く染めながら――つねられたからじゃないよ?――ストーン女史。
「あ、で、それで貴男のお住まいって、ロンドンのベイカ――」
タラリラタラリラ、タッタラターー。
と、ここで博士のグレープフルーツスプーンが鳴り、
「皆さーん。《バベル》の改造終わりましたよーー」
と、博士が皆を呼んだので、二人の会話はここで終わることになった。
「これで女王陛下ともお話出来まーす」
(続く)




