第五週:無口と兵士(月曜日)
惑星 《ディアン=スウ》の春祭り――特にフラウスの祖母の家があるペイエ県付近では 《ション=ロォン祭》が盛んである。
そのため、この土地の者は皆、春分が近付くに連れ気もそぞろとなって行き、それぞれの街や里の長たち――と云うかその会計係たちは、昼夜を問わず祭りの予算策定・管理に追われることとなるし、祭り後の一週間は予実の確認に寝る間も奪われることとなる。
*
パチパチパチパチパチパチッ。
と、里長室内にソロバン玉の激しく鳴り響く音がし、と同時に、
シャシャシャシャシャシャシャシャッ。
と、ワラバンシの上をHB鉛筆が激しく動く音も響いた。すると次には、
「南シュシュイの礼学者の方々への謝礼は如何ほどに?」と、この里の会計係が訊き、
「今年は何人来るんだ?」と、この里の里長が、その黒々とした眉の辺りをカリカリと掻きつつ訊き返した。
「……三名のご予定です」
「三人も?」そう里長は言うと、左の手の指を四本立てつつ「……これでは?」と訊いた。
「……それでは少ないかと――」
すると里長は、「そうか?」と言ってしばらく考え込んだ後、渋々と云った表情で、「なら、これでは?」と、左手の指全部と右手の人差し指を立てて見せた。
パチパチパチパチパチパチッ。
と、再びソロバン玉の弾かれる音がし、
「相場並みですし、予算内でもあります」と、会計係が満足そうに言った。
そんな彼の隠した笑顔を見て見ぬフリしつつ里長は、里長室の若き客人たち――11才となったフラウス・プラキディウス・ランベルトとシャーリー・ウェイワード――の方に向き直り、
「すまんな、予算がギリギリで、」と、言った。「花火を頼み過ぎたらしい」
(続く)