第四十九週:鷲鼻とヤシの実(木曜日)
「ほじゃけえ、お前はやめとけ言うとろうが」と、どこかで聞き覚えのある北銀河訛りの男性が言い、
「いいから行かせて下さい」と、こちらも聞き覚えのある若い女性の声が応えた。「陛下には私から直接お伝えしたいのです」
こちらは入院加療の期間が過ぎたばかりのロクショア・シズカと、そんな彼女の付き添いを続けていたサン=ギゼである。
……惑星に帰らなくて良かったんですか?
「ウチの王にシズカのケガんこと伝えたら、“惚れた女の世話する機会なぞそうそうないぞ”ちゅうて返されましてのう。“その女子のケガが治り切るまで帰って来るな”言うて、令旨まで出しよったんです」
と、柄にもない小声の早口でギゼ。
すると――、
「ワァッハッハッハ!!」
と、本日何度目になるのかもう忘れたが、ランベルト大帝の呵々大笑が宮殿全体に響き、
「それは!如何にも王らしい!!」と、目の端に涙を滲ませながら言った。「それで?お前の気持ちはどうなのだ?!シズカくんよ!!」
すると、この皇帝の大声に周囲の宦官・騎士らの注意も集中し、自然その視線もギゼとシズカの方にも注がれたのだが――、
「へ、陛下――」
と、その巨体を珍しく縮こませながらギゼが言い、
「私の気持ちも何も、イン=ビト王が勝手に仰っているだけで――」
と、その白い顔を紅く染めながらシズカが、
「……ギゼ殿からは、何も」
と、動揺する男の背中を見つつ言った。
すると、
『陛下も御人が悪い』と、宦官のティ・ワフールが想い、
『なんとかシズカに言わせるつもりだな』と、宮殿騎士の一人E・C・ヤルドバズも想うと、
『それはさておき話が止まってんな』と、青い光が想ったので、
『と云うか――』と、大耳大鼻の男性は考えた。『この姉さんなら丁度良いかもな』
(続く)




