第四十八週:オオイチョウと左腕(土曜日)
「やはり飲むのか?」と、ウォン・フェイが眉をひそめながら訊き、
「そうイヤそうな顔をするな」と、ス・イゲイは応えた。「初めて見る酒だから、味見してみたいだけだ」
「まあ、お前の身体だから止めはせんが……強過ぎたりはせんのか?」
そう言われてイゲイは「さあ、どうかのう?」と、キュポッ。と、その瓢箪徳利の栓を抜き、匂いを嗅いでみた。「ああ。蜂蜜酒の類いのようだ――度数は高くないだろう」
「度数表示などはないのか?」
「どうも自家製らしい。ラベルは付いておるが名前だけじゃ――」と、最近老眼が気になり出した目を細めながらイゲイ。「スカ……スカルスキャ……スカルスキャパール?・ミャーダル?……うん。名前も初めて聞いた」
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「スカルスキャパール・ミャーダル?」と、坪井西子が訊き返した。「いえ、初めて聞きますけど――地球のお酒っぽい?」
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「ス師匠が飲んだのですが……」と、困った様子でフェイ。「全然酔わないらしいのです」
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「酔わないなら良いじゃないですか」と、坪井。「イゲイさんお酒強いんですよね?」
「なになに?何かあったんですか?」と、ここで佐倉八千代が話に割り込んで来たので、
「それが、ここにあったスカなんとかって地球のお酒をイゲイさんが飲んじゃったらしくて」と、坪井は返した。「なんかフェイさんが気にしてて――八千代ちゃん知ってる?」
「いいえ、咲希ちゃん知ってる?」
「ううん」と、木花咲希。「変な名前ですね――小張さん知ってますか?」
すると問われた小張千春は、紫草木草団子を目一杯頬張りつつ、「それ、北欧神話に出て来るお酒の名前ですよ」と、答えた。
(続く)




