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第四十八週:オオイチョウと左腕(水曜日)

 “臥鳳蔵凰”


  ――“臥した鳳と、蔵れた凰”。


 先刻ウォンがこの型をロンとシャーリーに見せた際、彼は、突然現れた奇妙なボックスに邪魔をされ、この型に関する最も重要な点を二人に伝えそびれているが、それは“この型は一人では完成しない”と云うことである。


     *


「臥鳳蔵凰!」


 そう叫ぶと同時にロン=カイの身体は、先般の師匠の動きを想い出しつつ舞い出ようとしていた。


 両の足で地を祓い、両の脚で地を鎮める。


 腰は地に起ち、気を纏い、


 大地と大気の恵みのその気を、


 件の朱の鳥の如く、拡げた両腕から――、


『腕を上げたな――』


 と、少年の気が放たれるよりも早く――まるで時間をフライングしたかのように――イグ=バリが彼の左後方へと入り込んでいた。


『おい!小僧!!』


 キィィィィーーーーーン。


 と、バリの両腕が、まるで鍛え上げられたマルテンサイトの大剣同士が擦れ合うような音を上げ、またそれに先んじる形で、ロンの左肩甲骨から頸に繋がる線を狙った。


 普通の、中等以上の騎士であれば、この時点で即死か、悪くすれば一生身動きの取れぬ身体へと変えられていたであろう。


 ――が、この時のロン=カイは、彼の出所不明な血のせいか、それともウォンの型を真似たせいかは定かではないが、奇跡的とも言える動きを以って、この斬撃を躱すことが――少なくとも、その大半を躱すことが出来た。


 ザン。


 と、肉と骨の同時に斬られる音がし、


『フン』


 と、喜びと後悔の入り混じった感情のままにバリが鼻を鳴らし、


「え?」


 と、体勢を立て直し掛けた少女が少年と男の方へと目を遣った。


 ――瞬間、


「う、あぁぁああぁぁあ!!」


 と、ロンの悲鳴が周囲に響き渡り、彼の、未だ生長途中の左腕が、見事に断たれ、堕とされていた。



(続く)

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