第四十七週:図書館とくっつき虫(金曜日)
C:で、それは名前で言うとオナモミとかタコウギとかセンダングサと言うんだけれども、そう云うトゲトゲとかネバネバとかで頭や服にくっ付いてくる植物の種のことを“くっつき虫”とか“ひっつき虫”とかって言います。
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『ちょ、ちょっとストップ!』
と、これまた自分にまとわり付いて来る大型のヒカゲイノコズチを得意の真空切りで叩き落としながら“シズカ”は訊いた。
『この話続けるつもり?』
――うん。楽しそうだからね。
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C:では、なんで彼らはそうやって人の頭や服やイヌとか動物の毛なんかにくっついて来るのかと云うと、そうやってくっつくことで色んな場所に運ばれて、落して貰って、そこで芽を出すためなんだよね。植物って自分では遠くまで行けないから、そうやって運んで貰って遠くで芽を出す。そう云う種のことを“くっつき虫”とか“ひっつき虫”とかと言います。ここまでは大丈夫?
B:大丈夫です!
C:あー、元気があって良いねぇー。えーっと、それでボブ君はチバ県だっけ?
B:チバ県アビコ市○○町の――。
A:あー、ボブ君、詳しい住所までは言わなくて良いよー、ありがとー。
C:あー、で、そうそう。で、どうもボブ君の住んでいる所では“くっつき虫”って呼んでるみたいだけど、これ、呼び方も地方によって色々あるみたいなんだよね。“ゲジ”とか“バカ”とか“くさじらみ”とか。
A:私のところは“ドロボウ”って呼んでました。“あっ!ドロボウ付いた!”みたいな。
C:そうそう。でね、どうもこの“くっつき虫”とか“ひっつき虫”とかって呼び方は結構最近出来た呼び方らしくて――、
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『あのー』
と、半ば呆れた感じで“シズカ”。
『もう規定の枚数 (400字詰め二枚分)過ぎちゃいましたけど?』
――まあまあ、坪井くんには僕から断わっとくよ。
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C:で、さっき言った“ゲジ”とか“くさじらみ”って結構イヤーなイメージあるじゃない?“ドロボウ”もそうだけど。
B:うんうん。
C:でね、これがなんでイヤなイメージかって言うと、例えば“シラミ”って分かるかな?
B:うーん?
C:そうだよね、分んないよね。これはね、1mmぐらいの小っちゃな虫なんだけど、人の血を吸っちゃう結構イヤなヤツなんだよね。
B:イヤなヤツ?
C:そうそう。払っても払っても取れないしさ、で、草の種でもさ、こう云う小っちゃくって払っても払っても取れないのを――、
*
『“クースラポリの義憤”!』
と突然、“シズカ”は叫ぶと、周囲の、と云うか自分にシツッコクまとわり付いて来る各種の大型の“くっつき虫 (超絶ウルトラデラックス進化版)”たちをその衝撃波で払い飛ばした。
『なぎゃーわ!』
そう言うと彼女は、
『なあにが悲しゅうてそないな虫だか草だかの呼び方の話を延々と聞かされにゃあアカンのだっちゃ?!』
と、親類縁者もいなければ彼女自身訪れたこともない北東銀河特有の訛りを駆使してまくし立て、
『ええから、そこのアイスなんとかとランベルトのお孫さん、うちと一緒に来て貰うで』
と、フラウスたちの方へと向って行った。
――が、直後、
パラパラパラ。
バサバサバサ。
グワサグワサグワサ。
と、彼女の周囲の植物たちが突然彼女に圧し掛かって来て――、
『キャー!!』
と、“シズカ”が叫び、
“ヤレヤレ。”
と、ボブがテレパシった。
“あんなことをするから、みな怒ってしまった。”
(続く)




