第四十六週:パートとタイマー(金曜日)
『おや?』
と、“死者の惑星”で少年が呟いた。
『イグ=バリのモニターが切れましたな』
すると、その声に気付いた“エル”が、
『またですか?』
と言った。
彼女は宮殿でのドタバタでホコリまみれになった衣服を着換えている最中である。
『あの人、隠れてコソコソやってる時が多くないですか?』
『まあ、これだけ様々な宇宙から様々な騎士を連れて来たのです』
と、“エル”の方に向き直りつつ少年は言ったが、彼女が着換えの最中だったと気付くや目を背けてから、
『――中には問題持ち、兇状持ちもいるでしょう』
と、応えた。
『まあ、大勢に影響なければキの字でも兇状持ちでもなんでも構いませんけどね』
と、“エル”。
『ワザと切ったんなら、誰か見付けたってことでしょうね?』
『……ロン=カイ?』
『それか、“元の世界”から来た知り合い?』
『可能性としては前者でしょうな?』
『他の時点からの連絡は?』
『《地球》に向った“シズカ”は植物に邪魔され手間取っており、継続探索中』
『《ここ》って云うか、別の時間?空間?の 《ハドルツ》の方は?』
『“イゲイ”殿にお願いしましたが、例の攻防戦の真っ最中でして、こちらも苦労しているようです』
『ああ、それで何もない 《ソディム》に行ったバリさんが一番動きが早かったワケね』
*
「キャーー!!」
と、ストーン女史が (彼女には珍しく)喜びの声を上げた。
と云うのも彼女はいま、ロンドンはウェストミンスターにある (はずの)ローズ・クリケット・グラウンドの観客席に座り、周囲のロンドンっ子たちとともにICCクリケット・ワールドカップ (を模した大会)の決勝戦を観覧していたからである。
もちろん彼女も (パートタイマーではあるものの)いっぱしのタイムパトローラーではあるので、たかがクリケットの試合如きに職務・職責を忘れて歓声を上げるようなことはしないハズなのだが (多分)、ただそれでもこの試合は“たかがクリケットの試合”ではない。
――と云うのも、
「キャー!! ドンよ!! ドンよ?! ザ・ドンですよ?!!」
と、まるで祭囃子でも始めるかの勢いで彼女が指差しているのは、『クリケット史上最高』とまで呼ばれたサー・ドナルド・ジョージ・ブラッドマンであり、その彼に向け赤くて重くて小さな球を投げようとしている金髪碧眼のイケメンは、
「あれが! シェーンよ!! あれが!! シェーンなんですよ!!」
と、なにが“あれ”なのか素人には全く分からないまま説明されるシェーン・キース・ウォーンで――え?
あー、はいはい。
「クリケット史上屈指の、いえ、最高のボウラーなんです!!」
……と云う人らしい。
で、この二人の他にもローズ・クリケットの完全無欠な芝生の上には、パッと見ただけでも――サチン・テンドルカール、ガーフィールド・ソバーズ、ジャック・ホッブス、ヴィラット・コーリら錚々たるメンバーが……って言っても分からないよ、ライリーさん。
「なんでですか?!」
「ナンデモモナニモ、くりけっとナンテクッソろーかるナ競技、誰モ知ラナイッテ」
「そんな事ないわ! いつかのインド―パキスタン戦なんか十億人以上が観たんだから」
いや、だからクリケットの話はそろそろ横に置いておいてここが何処か説明を――、
「だから 《時主》の人たちも、この 《カーウ》にローズ・クリケットを置いたんでしょ?」
そうそう、分かりやすい説明セリフありがとう。
――ってことで、こここそが惑星 《カーウ》。《銀河最後の秘境》である。
(続く)




