第四十五週:ヤングと松井(土曜日)
チーン。
と、これで何度目か分からない感じでコントロールルームのハイパー加水調理器が鳴り、『どら焼き&大判焼きミックス』が出来上がったことを報せた。
「えーっと、どら焼き頼んだのってイゲイさんでしたっけ?」と、佐倉八千代が言い、
「あ、すまんな、お嬢さん」と、ス・イゲイは応えた。「“お茶け”がないと、代わりに甘いものが欲しくなってなあ」
――師匠、それ糖尿とかじゃないですか?
すると、この会話に割り込むように「あ、大判焼きは私です――」と、小張千春が言い、「あと、お抹茶の準備も出来ましたよ」と、皆に注意を促がした。
「そのお道具って何処にあったんですか?」と、小張の用意した抹茶セットを興味深げに見詰めながら坪井西子。
――その器とか高そうじゃありません?
すると、
「それがコントロールパネルの下に桐の箱が置いてあって――」と、乙女心と甘い香りとお腹の空き具合の狭間で揺れ動き続けている木花咲希がこれに応えた。「ホコリまみれで、高台?の部分もちょっと欠けていて――」
と、ここで、
「はーい、最初は誰が飲みます?」と、一杯目を点て終わった小張の声が聞こえ、
「あ、では、先ずは私から――」と、イゲイのどら焼きを分けて貰いつつウォン・フェイが言った。「いやはや、大したお手並みで」
「子供の頃、ちょっと齧った程度なんですけど――」と、小張。「なんかこのお茶碗、すっごい点てやすいんですよね」
黒地に大小の斑紋が星空みたいですし――。
*
「――なあ、樫山さんよ」
「なにも言わないで下さいよ、デュさん」
「いや、まあ、言わないけどさ――結構、皆さん楽しまれてるよな……」
「うん……Mrには私から謝りますよ」
(続く)




