第四十三週:ケヤキと椎の木(木曜日)
「しかし変な森だなあ、これなんかはオオケヤキっぽいけど…………アイスくん?」
『はい?』
「あんまり離れないでよ?」
『あ、ごめんなさい。つい見入ちゃってて』
「見入っちゃった?」
『なんだか見覚えのある気がして――』
「見覚え?」
『はっきりとはしないんですが、そこの川?の形とか、この石畳?の感じとか――』
「こんな変な森、僕なら忘れないけどね」
『変?』
「あー、例えば、あそこのアキスザニレ?みたいなのは紅くなってるけど、そこのクシノシデ?かな?は緑のままだし、あそこの木は花が一杯咲いてるけど胚珠がむき出しになって――って、ごめん。分からないよね?」
『すみません』
「いや、近所の森でよく遊んでたから変に詳しいだけなんだけど――でも、この森を見たら植物の先生はびっくりするだろうな」
『そんなにですか?』
「うーん?何世代分もの変異が一気に起きないとこんな奇妙な形には……何か言った?」
『……いいえ?』
「でも、いま確かに誰かが呼んだような――」
“そこの……そこの人間の子供。”
「……え?」
『……聞こえました?』
“そんなに驚くな。お前たちの頭に直接語り掛けているだけだ。”
「……直接?」
“なんだテレパシーも知らんのか?”
『テレパシー?』
“もちろん、ケヤキの私が「テレパ椎って!」と云うギャグではないぞ?”
「…………え?」
“……うん、気にするな。それより私はこの 《ケヤキ広場》の主 《ケヤキのボブ》だ。”
(続く)




