第四週:チャームとナイフ(火曜日)
ヒュッ。
と、イン=ビト兵が使うとされる両刃の大剣――を模したつもりの小形の木太刀がフラウスを襲った。
「それで?」と、彼の首筋を狙うのは、その右斜め後方へと踏み込んだシャーリーである。「――本当に穴はふさがったの?」
が、これに対して彼は動じず、その場で左に沈み込みつつクルリ。と廻ると、「ふさがるのはふさがったんだけど――」と言って、彼女の背後を取った。
*
「必死で開こうとしている穴があったとして」博士が訊いた。「――君ならどうする?」
「危ないのなら」と、フラウスは答えた。「――無理にでも閉じますね」
すると博士は、手にしたグレープフルーツスプーンをまるで携帯用の音叉でも鳴らすように膝で叩くと、「半分正解」と、言った。
「無理にでも閉じるのは正解。でも、その前に一度、ドバッと開けてあげなくちゃダメ」
クワヮヮワォン。と、スプーンが奇妙な音を発し、ネコ型フォースフィールド発生装置 (カワイイ5タイプ)が一斉に仕事を始めた。
「内側に溜まった圧力を一旦解放してからじゃないと、歪な形で閉まったり、別のところが破けたりしちゃうわ――」
彼女の言葉にフラウスは、少しの間考え込んでいたが、どうにかその意味を理解すると、「穴を広げるってことですか?」と、訊いた。
すると博士は、「そうよ」と、その氷種黒曜石のように光るやわらかな黒い瞳を一瞬だけ彼の方に向けて続けた。
「――で、中から出て来る“異物”はフィールドで抑え込んでおいて、穴が自然に縮み始めるのを待つ」と言うその口元は、若干笑っているようでもある。
「で、でも、フィールドが破られたら?」
「大丈夫よ」と、彼の手を更に強く握り締めながら博士。「――お姉さんに任せといて」
(続く)