第四十一週:自と他(水曜日)
「100万個の原子を持った個体が2人集まれば200万個、10人集まれば1,000万個、100人集まれば1億個」
と、腰を落とし左右の腕で螺旋を描きながら、さながら舞いでも舞うかの如くウォン・フェイの演武は続く。
「人が集い、原子の数が増えれば増えるほど、“術”の精度は増す」
白蛇吐信から拍脚伏虎へ、
左身捶から穿拳下勢へ、
独立掌から右単鞭へ、
「しかしその為には、“揺れ動く原子”は“皆悉く同じ”でなければならない」
雲を押し出し、
馬の鬣を分ける。
馬の背を探り、
右踵を蹴り出す、
「“攻守”、“陰陽”、“強弱”、“友敵”、“勝敗”、“自他”――そんなモノで区切っていては、精度は落ちるだけ!」
耳を挟み、
左踵で蹴り出す、
掩手撩拳、
海底針、
閃通背、
と、彼の舞って舞うが如き演武に、ロンとシャーリーは目と心を奪われていた。
――が、一人ス・イゲイは、フェイのこの舞いに戦慄を覚えていた。
そう。
共に戦った往時、フェイはこれと同様の舞いで、たった独り、三千からなるオートマータの軍勢を防い……いや、掃滅せしめたのであるから。
「良いですか?! ロン=カイ! シャーリー・ウェイワード!!」
右左分脚、
膝拗歩、
上歩擒打、
「如何に自他の別を無くすか?! 如何に他者を己とするか?!」
如封似閉、
左雲手、
右身捶、
左右穿梭、
退歩穿掌――、
「それを我らが先達は、武極の一とした!」
ええい!
この流れではつまらぬ!!
「“愛”とは幻想ではない! 確固とした技術体系なのです! 見ておきなさい!!」
西方烈風!
臥鳳蔵凰!!
(続く)




