第四十一週:自と他(月曜日)
「“動きが鈍る”――確かにその通りです。が、言い方としては……“精度が落ちる”の方が私的にはしっくり来ます」と、フェイ。
ゆっくりと左足に重心を移し、そこで反射されるベクトルを更に右手先と左腕に分ける。
「100の内の10個――これだけの原子が別の方向に動こうとすれば、それは我々生命体にとって致命的な動きとなるでしょう」
分散された重力たちがフェイの身体の“最も無理のない経路”を通り右手薬指と左掌中央に集まって行く。
「では若し、これが“100万個の原子の集まり”ではどうでしょうか?」
と、そう問われたシャーリー・ウェイワードは、ハタと気付くと、
「1,000個になります!」と、少し興奮気味に応えた。
「誤差率は?」
「えっと……0.1%?」
「その通り。これが原子数100個だと?」
「……10%?」
「そうです。100倍の差が出る」
と、ここまで言ってフェイは、右手薬指と左掌中央に集まった重力を、ついつい放ってしまいそうになったが、それを再び身体中央に戻すよう左足の位置をずらしながら、
「つまり、身体の精度を上げたいのならば、“揺れ動く原子”の数は多い方が良い。これが我々の身体部位を“攻”と“守”、“陰”と“陽”、“強”と“弱”のように分けてはいけない理由なのです――そうして殺気は、どうしてもこれらと…………それに“敵”や“味方”、“勝者”や“敗者”と云ったものまでも創り出してしまいます」
と、続けた。
と、彼のこの言葉に、その最後の部分に、少しく引っ掛かりを覚えたシャーリーが、
「あの――」と声を上げた。
「私たちの身体を分けてはいけないとして、何故“敵”と“味方”を分けることもダメなのでしょうか?」
(続く)




