第四十週:殺気と動機(土曜日)
宇宙が違う?……ってどう云う意味?
『言葉通りの意味です。いま現在我々のいる宇宙とは別の宇宙のカシヤマ・F・ヤスシ様からの音声メールが、故意か過失かまでは分かりませんが、坪井様の所属される編集部宛てに送られて来たようです』
……パラレルワールドってこと?
『ああ、はい、その通りです』
*
「でしたら、“あちらの宇宙”の坪井さんなり樫山さんなりは逆に困っていらっしゃるんじゃないですか?」と、小張千春は言った。
彼女はいま、コントロールルームの片隅にあったハイパー加水調理器とその横に置きっ放しになっている名刺サイズの『フィッシュ&カスタード』なるインスタント食品?に興味を示しているところである。
「すみません。これって作ってみても良いですか?」と、小張。「“レベル4で六人前”ってあるので、数も丁度合いますし」
*
あ、うん、多分Mrのですけど、置きっ放しですし構わないと想いますけど……それ、魚のフライをカスタードクリームで食べるって云う結構なゲテモ……「甘じょっぱくておいしそう」?――まあ、良いですけど。
*
「やった!」と、加水調理器を準備しながら小張。「前に海外のドラマで見て試してみたかったんですよね。主人公がとても美味しそうに食べていて……って、そうそう。その主人公も平行世界に行ったり来たりしてましたけど、私たちはどうしますか?間違いメール、ちゃんと届け直した方が良いですよね?」
*
え?……いやいやいや、小張さん。間違いメール一通のために宇宙間をまたぐなんてそんな。送り返せば良いだけですし、そもそもそんな簡単にまたげ…………ないよねえ?
(続く)




