第四十週:殺気と動機(金曜日)
ビ、ビジ、ビジジジ。
と、宮殿北側にいる“エル”のバズ・ソケットが鳴り、と同時に、
ビビビ、ビビ、ビビビビビ。
と、宮殿南東側にいた大耳大鼻の男性のラチェットレンチも鳴った。
「どうしたの?」と、フェテスが言い、
「場所を探すんじゃなかったの?」と、エリシャが続けて訊いたので、
「いや、勝手に鳴り出した」と、男性は返した。
――と同時に、
『そっちから掛けて来るとは想ってませんでした』と、宮殿北側の“エル”が呟き、
『いや、なに――』と、遠く遠い“死者の惑星”に居る少年も呟いた。『あまりにも遅過ぎましたので』
*
「先ず、最初に知っておいて頂きたいのは――」
と、まるで自分から自分へ言い聞かせるようにウォン・フェイは言った。
「“何故、我々の身体はこんなにも巨大なのか?”と云うことです――ですな?ス師匠?」
すると問われたス・イゲイは、
「うむ。その通りだ」
と、まるで全て分っているかのように応えたが、
「流石は師匠」
――やはり分っていないな。と、フェイにはマルッとお見通しであった。
――が、まあ良いか。
「すると、この問いからは新たに次のような問いが生まれます」
と、自分とロン=カイ……だけでなく、イゲイの傍らに居る少女シャーリー・ウェイワードにも向けるつもりで彼は続ける。
「それはつまり、“何と比べて、我々の身体はこんなにも巨大なのか?”と云う問いです」
*
「そうね、原子の直径が大体1~2オングストロームだからメートルで言うと100億分の1メートルぐらいになるわね」
と博士は言ったが、そもそも地球の赤道と北極点を基準に作られた長さの単位を持ち出されてもフラウスにはピンと来ない。
なので、
「大体1メートルは4分の1クラディオンね」
と、ストーン女史が補足したが、直ぐに、
「ま、でも、100億分の何とかの話だから誤差みたいなもんか――」
と、自ら補足の補足をした。
「デモ、ナンデイキナリソンナ話ヲシ出シタンダ?」
と、Mr.B。
「小サナ原子ガ寄リ集マッテ僕ラヲ形作ッテルッテダケノ話ダロ?」
*
『まさか捕まっているとは――』
と、“死者の惑星”で少年が呟やき、
『イレギュラーが多くてね――』
と、宮殿北側で“エル”が呟いた。
『お迎えに上がりましょうか?』
――“抜け穴”は繋げましたが?
『でもそしたら葉さん残すことになっちゃうでしょ?』
――三人通るには小さいもんね。
*
「我々の原子の平均的なふるまいは“平方根の法則”に従います」
と、その場にやおらと立ち上がりながらフェイ。
「つまり、100個の原子があれば、その内10個の原子は例外的なふるまいをすると云う意味です」
右足の踵に重心を寄せる。
つま先の浮き上げ方次第で左側面への移動距離も速度も回転半径も自由に操れる。
――が、これはあくまで私の身体だけの場合だ。
「身体を沈み込ませたいのに100個の内10個の原子が浮き上がろうとしたらどうなるでしょうか?――ウェイワード嬢?」
と、突然話を振られたシャーリーは――彼女は今、踊りでも始めるかのようなフェイの動きにフラウスのことを想い出しそうになっていたのだが、その想いを止めると、
「えっと……、動きが鈍る?」
と、答えた。
(続く)




