第三十九週:下ネタとパンダ柄(火曜日)
「すると貴女はスクトゥム士の血筋と云うワケですか?」
と、コクン頭の男が言った。
「――それで近付く際の足音がしなやかだったのですね」
――なるほど、“空歩”にも遺伝的要素が必要なのかも知れない。
さて。
ここは 《サ・ジュジ騎士学校》がある惑星 《ウー=シュウ》の星際宙港――そこの星際線到着口であるが――、
「足音で分かるものですか?」
と、シャーリー・ウェイワードは男に訊き返した。
――あと、荷物はその袋だけですか?
「“食事の心配は無用だ”とス師匠に言われましたので」
と、ウォン・フェイ――ロクショア・シズカの師匠は言った。
――最低限の着換えだけ携えて参りました。
そう言いつつ彼は、その見えない目で旧い友を懐かしんでいるようでもあった。
「あと、私のような目の者はどうしても耳や鼻が敏感になるものでして、貴女の足音もそうですが、そちらの方のふるまいや息遣いも、普通の方々以上に観えてしまうものなのです」
そう言ってからフェイは、彼のこの言葉に身体を強張らせたであろう少年に向け“和気”と“感謝の言葉”を送った。
「シズカさんが一命を取り止めたのは、貴方の尽力あってのことだと聞きました。彼女は私の弟子でもある。大変遅くなってしまいましたが、是非、貴方にお礼を申し上げておきたい。――ありがとう、大変感謝しています」
この言葉にロン=カイは、それまでずっとシャーリーの陰に隠れていたのだが、陰から抜け出すと、フェイの下へと近付き、以前ス・イゲイに見せたような土下座を、彼に向ってしてみせた。
「ああ、ロンくん」
と、慌てた口調でフェイ。
「私も君と共に拳を学ぶ者、そんなことをされては困ります」
――うん。鍛えがいのありそうな子だ。
「――さ、顔を上げて下さい」
(続く)




