第三十八週:フォースとサリュート(火曜日)
「《カーウ》……って、何でしたっけ?」
と、この時代の銀河の地理にはまったく疎いストーン女史は訊いた。
あ、そう云えばすっかり説明が抜けていたけど、ライリー・ストーン女史の現住時及び現住所は、西暦2029年の辺境惑星 《地球》はイギリス・ロンドンで、彼女の本職は中学校の先生 (英文学)だったりする。
ええ、タイムパトロールってパートタイマー&兼業もオッケーになっていて…………って、言ってませんでしたっけ?
『確かに、ライリーさんの時代には存在すら知られていなかったかも知れませんね』
と、亜空間モニターの向うで言うのはTP本部のマクミラン教授である。
『《銀河最後の秘境》とまで言われる惑星で、いま皆さんのいる西銀河の更に西の果てにあって、ああ、そう言えば――』
と、ここで一瞬、
『一時期、《西銀河の地球》なんて言われ方もしてたわね――』
と言いそうになったマクミラン教授ではあったが、そこは通話相手の出身を気にして急いで言葉を飲み込むと――、
『確かキム博士は行ったことがあるんじゃなかったかしら?』と、素知らぬ顔で続けた。
すると、突然話を振られた博士は、
「《カーウ》は行ったことないですね」
と、タイムボックスのコントロールパネルに頭を突っ込んだまま応えた。
「姉妹惑星――まあ、一つは彗星ですけど――になら小さいころ行きましたけど」
「姉妹?」
と、ストーン女史。
「“姉妹”って言い方が正しいか分かりませんけど」
と、コンパネから頭を抜き出しながら博士。顔に着けた丸型のゴーグルがマックロクロスケモドキまみれになっている。
「オオツタハコバツバメバチの原産地の一つなんですよ」
(続く)




