第三十八週:フォースとサリュート(月曜日)
「ですから一旦、本部に戻りましょうよ」と、先ずはストーン女史が言い、
「勢イ込ンデ飛ビ出シタケド、ドーセイツモノのーぷらんナンダロ?」と、次にMr.Bが言って来たので、
「ノープランってワケでもないんですけど――」と、今まさにプラン捻出中の博士は応えた。「“あの私”を本部に連れて行くのは、やっぱりちょっと怖いんですよね」
――ランダム先生みたいに話の分かる人ばかりじゃないし。
「確かに色々聴かれたり調べられたりするかも知れませんけど」と、ストーン女史。「あの子を“元の宇宙”に戻すなら本部の力があった方が良いでしょ?」
うーん?そうなんだけどなあ、なーんか、こう、スッキリしないって云うか、引っ掛かるって云うか、本部に行ってもクリアしそうにないって云うか……
と、そんなことを考えながら博士は、タイムボックスの中を物珍しそうに歩く“あっちの自分”と、彼女と同様ボックス内の“やたらと広い空間”及びそこに溢れる素っ頓狂な装置に驚き呆れるフラウスの方を見るともなしに眺めていたのだが、
「ねえ」と、考えをまとめるつもりで博士が訊いた。「あなたって云うか私って云うか、アイスちゃん?は、こう云うところ初めて?」
すると、自分と同じ顔をした“お姉さん”の方を振り返りながら“向うの世界のアイスオブシディアン”が、
「色んな世界に行きましたけど、こんな変った乗り物は初めてです」と、答えて来たので、
「あ、なるほど」と、博士は気付き、「“Mr.Blu‐O”って知ってる?」と、“彼女”に続けて訊いた。
*
「だったら陛下の所に行きましょうよ」と、正装ドレスもいい加減着崩れっ放しのシャ=エリシャが言い、
「そうだよ、きっとお祖父さ……陛下も喜んでくれるよ」と、慣れない革靴がいい加減痛くて仕方のないナビ=フェテスが続けた。「友だちだったってことでしょ?実際」
すると、そこで一瞬、ちょっとした沈黙があり、鼻の大きな男性は右手の人差し指を上に向けると、二人に黙るよう目で合図をした。
ビジジジ、ジジジ、ジジッ。
と、ラチェットレンチがいつも通りの奇妙な音を立て、
「“友だち”とはちょっと違うよ」と、男性は返した。――顔も身体も変わったしな。
ここは宮殿内の一室。問題の露台とは真反対の位置にある何かの倉庫のようだが……、
コンコンコン。
と、男性が壁をノックし、
コッコッコッ。
と、同じく床を軽く蹴る。
それから今度は、手にしたラチェットレンチを天井近くの明り取り用の窓に向けると、
ジジジジジジジジ、ジジジジジ。
と、レンチが激しく反応した。
「うん。一つ目はここだな」
(続く)




