第三十七週:ヤンチャとスカウト(木曜日)
「陛下、少しお気をお静め下さい」
と言ったのは、皇帝付き宦官のティ・ワフールである。
「あの男の何をどう気に入られたのかは分かりませんが、宮廷騎士団は二軍もファームも十分に足りております」
――防衛費アップによる国民世論の反発も最近大変なんですよ?
すると、
「そんなことは分かっておる」
と、まったく分かる気もない声と表情でランベルト大帝。
「それでも、ワシと互角……とは言わないが、そこそこやり合えるヤツだぞ?」
――側に置いておけば楽しいではないか。
「ですから、先ずは奴の氏素性を確かめてからですな――」
と、言い掛けたところでワフールは気付いた。
「いえいえいえいえ、陛下」
「なんじゃ?」
「奴は陛下を殺しに来た者ですぞ?」
――そう云うヤンチャはそろそろお止め下さい。
*
「お祖父さんを殺そうとしてた?」
と訊いたのは、逃げ先絶賛考え中の博士である。
「狙いはそっちの私と……君にも“ヤボ用”があるって言ってたけど?」
――この“私”を連れて時空間を行ったり来たりするのはちょっとマズイですよね?
すると先ずはフラウスが、
「祖父は敵の多い……その……騎士ですから」
と、自分の素性をぼやかしつつ応えた。
「多分、その関係で狙われたのだと想います」
――相手の技にも明らかな殺気が込められていましたし。
「じゃあ、そっちの男の人は男の人で目的を果たしつつ陽動役になったワケか――」
と、言い掛けたところで博士が気付いた。
「うん?――ちょっと待ってね」
「なんですか?」
「じゃあ、“こっち”に来たのって二人だけなの?」
――“穴”ってそんなに小さいの?
(続く)




