第三十七週:ヤンチャとスカウト(火曜日)
黒い短髪、と云うか坊主頭に近い男性の後頭部に赤と緑を混ぜ合わせた靄のような光のような薄い膜が出来て、
『はて?全身に拡がるべきか?ここで止まるべきか?』
と一瞬、逡巡した雰囲気を見せた。そうしてそれから、この靄だか膜だかは
『うん。今回はここだけで良さそうだ』
と判断すると、その場に腰を下し、傷口の“再生”に取り掛かり始めた。
*
「ええっと…………なんでここの宮殿はこんなに入り組んでんだ?」と、青い光の 《サカタッティ》は独り言ち、それから、
「ジイさんは来たことあるようだったけど、コレだけじゃ分かんねえよな」と、大耳の男性がくれた地図を改めて見返したのだが……、
「うん。やっぱ分かんねえや」と、その小汚い手書きの地図をしまうと、
「誰か見付けて訊くことにしよう」と言って宮殿奥の方へと飛び去って行った。
*
「先ずは姓と名を名乗れ!」
と、宮廷騎士団の一人ロスト・リチャーズは叫んだ。
――ただの少女にしか見えんが、どうだ?
「その後、ここにいる理由を言え」
――一人でここにいること自体“ただ”ではないよな。
すると、この質問に対して“エル”は、
『先ず、名前は“キム”です。“キム=アイスオブシディアン”』
と、素直に答えた。
すると、この答えを聞いたリチャーズは「狙い続けろよ」と、傍らのワイアッドに小声で指示した後、胸元の携帯型デバイスに向け、
「検索・姓・名・“キム・アイスオブシディアン”」
と、言った。
“無駄なんだけどなあ……”
と、そんなリチャーズの動きを横目に見ながら“エル”は想ったが、
“でも脳みそ筋肉っぽいし、これ以上色々言うのもなあ……”
と、その口を噤むことにした。
“ま、訊かれたことだけ答えるようにしましょう”
(続く)




