第三十六週:ダイヤモンドと警告音(木曜日)
さて。
東銀河帝国第十一代皇帝コンパルディノス二世の元の名前は、ルザディオクレス・“L”・ハーネスであった。
彼は、第一次オートマータ戦争開戦前夜、所謂 《アルキビアテス大公暗殺未遂事件》でその両腕を失い、その代わりに、ある男性との出会いと『自分は選ばれた人間なのだ』と云うある種の確信を得た。
そうして、その確信を基にオートマータ戦争に参加、詩に謳われるほどの戦功を挙げると、それを足掛かりに政治の世界へと入って行き――後は皆さんご存知のとおりである。
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「しかしそれでも、と云うか余計にと云うか、“あの男”への未練が断ち切れなくてな」
と、ある時ルザディオクレス――いやこの時点で既に皇帝になっていたので“コンパルディノス”としよう――は、出入りの賈人が連れて来たと云う珍しい客人に向って言った。
「貴公も 《時主》の方だそうだから、我々短命種族の気持ちは分からぬかも知れんが――」
と、微かに痙攣し続ける右の瞼を疎ましく想いながら皇帝。
「その挙句が、オートマータのナノマシン薬にすら頼って、この有様だ」
――機械の薬ではワシの身体は不老長生とはならぬらしい。
「なるほど」
と、その客人――後に 《コンパルディノスの協力者》として、こちらの宇宙でも名を遺すことになる 《一人の時主》ジアン=ウォは返した。
「それは、問いの立て方を間違えられたのでしょうな」
「問い?」
と、皇帝。
――やはり 《時主》だな、どことなく“あの男”に似ている。
「そもそも、我々 《時主》の長生は、その身体を生まれ変わらせることで成り立っております。陛下が“その男”とともに生き続けたいのであれば『身体ごと生まれ変わるには?』と問うべきでしょう?」
――よろしければ、このジアンに策がありますが?
(続く)




