第三十四週:ボビンと鈍い音(金曜日)
「“しおな”ッテドコダッケ?」と、ボックスの改造で余ったコードをしまいながらMr.Bが訊き、
「タイムパトロールならそれぐらい知っておきなさいよ」と、改造で開けっ放しにしていたコンパネ周りを元に戻しながらストーン女史が言った。「長い間、西銀河帝国の都があった惑星でしょ?」
すると、ここで珍しく、Mr.Bを庇うような口調で博士が、
「都の名前が有名になり過ぎて、惑星の名前が忘れられたパターンですよね」と言った。「ま、私たちって東銀河メインですし」
「ダブルチェックどうですか?」と、ストーン女史。
「無問題です。改造された割りには“この子”も大人しいですし」
「そうなんですよね、改造されている間も特に抵抗する様子とかもなくて」
「イツ弾キ出サレルカッテびくびくシテタノ二ナ」
「最近、ずっと機嫌悪かったもんね」――特に私は、悪口言われたり服を剥かれたりで散々でしたよ。
「ひょっとして、そこに行きたかったの?」
と、目標座標が映し出されたモニターを撫でながら博士が訊いた。
「でも、だったらなんで、そこに制限を掛けてたのよ?」
*
ブブッ。
グオン。
シュン。
惑星シオナ、ク=アン、星団歴4239年。ランベルト大帝の宮殿……の、とある廊下。
「待たせたか?」と、突然現れた男性が訊いて来たので、
「うひゃあ?!」と、飛び上がらんばかりにフェテスは驚き、
「ちょ、ちょっと、静かに」と、エリシャがフェテスの口を押さえながら言った。「――気付かれちゃうじゃない!」
「呼んだんだよな?」と、男性。「ボビンを鳴らしたのはどっちだ?」
すると、エリシャが左手を上げながら、
「陛下が襲われたんです」と、男性に言った。
「陛下?ランベルトのことか?」
「あ、でも、呼んだのはそっちじゃなくて」
「……“そっち”の相手の数は?」
「一人?かな?」と、これはフェテス。
「なら、サマラタなら大丈夫か」と、皇帝を字 (あざな)ではなく名 (な)で呼びながら男性。「……この前の女か?」
「襲ったのは男の人のようです」とエリシャ。――陛下をお名前で呼んだらいけないのに。
「でも、女の人があそこに」と、フェテス。――エリシャが何か言いたそうだけど……知らないフリしておこう。
「どこだ?」と、フェテスの指差す廊下の先を男性が見ようとした――その瞬間、
ブブブ。
グオン。
シュン。
ギギギギギギギギギーーーーーギャース。
と云う、いつものボックスのいつもの怪鳥音が宮殿廊下に鳴り響いた。
「なに?」
と、耳を塞ぎながら男性――“あの子”ならタイムパトロールに預けたままだぞ?
「――なんでここに?」
すると、ここでフェテスが、
「おじさん!」と叫び、続けてエリシャが、
「後ろ!!」と、叫んだ。
が、鳴り響く怪鳥音と塞がれた耳のせいでその叫びは男性には届かず――代わりに、
ゴヅッ!!
と云う異様に鈍い音が廊下に鳴り響いた。
博士のタイムボックスが、男性の後頭部を直撃したのである。
*
「アレ?」と、Mr.Bが言い、
「何かに当たりました?」と、ボックスの扉を開けながらストーン女史も訊いたのだが、
「それよりも何よりも」と、訊かれた博士はそれどころではなかった。「あれ、私ですか?」
(続く)




