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第三十三週:胡蝶乃夢と一陽来復(金曜日)

『うーん?かなり苦戦してるようですね』


 と、“黒の少女”が言った。


 彼女はいま竹トンボ様の反重力装置を背中に着け帝都の宙を皇帝宮目掛けゆっくり降下している最中であるが、その姿は身に纏った光学迷彩マントのせいで周囲からは見えない。


『ランベルトの爺さまが強いのは知ってましたけど、アレじゃあほとんど現役ですね』


 と、彼女は言うが、特に焦る風でもない。


『ま、来さんには時間を稼いで貰いさえすればそれで良いんですけど――』


 すると、


 ビジ、ビジ、ビジジ。


 と、彼女の手中のファズ・ソケットが鳴った。


 ビジジジジジジ。


『うん。爺さまからは離れたようですね』


 と、宮殿西側に目を遣りながら少女。


『うーん?ここの宮殿には即位の挨拶で一度来たことありますけど、結構入り組んでるんですよね』


     *


「各騎士長を露台に!大至急だ!!」


 と、胸元のマイクに向けて皇帝付きの宦官が言った。


 陛下より人を払うよう言われていたため露台周辺には少数の宦官しか置いていない。陛下のことだからご無事だとは想うが、あまりにも迂闊過ぎた――私も 《つごもり月》にやられたか?


「フラウス様は奥の間に」


 ――私も至急露台へと向いましょう。


「いいの?」


 ――騎士じゃないんだよね?


「無論です」


 ――陛下のために生命を賭すのは騎士も宦官も一緒。


 そう言ってから彼は、フラウスの右手の先、彼の手に必死に縋る少女の方に目を遣ると、


「敵の狙いはそちらの少女なのでしょう?」


 と続けた。


「陛下の御意思であれば、先ずはその子を匿うことが先決」


 ――何故そう判断されたかはいつもの通り分かりませんが。


「生命に代えても、御護り下さい」


     *


「貴公、名前は?」


 と、皇帝が訊き、


『葉来――行の息子だ』


 と、深く暗い帝都の宙を見上げながら男は応えた。


『勝負は付いた、早く殺せ』


 ――まあ、この傷であれば早晩死ぬだろうが。


「なにを言っているのですか?」


 と、仰向けに倒れたままの来から、それでも距離を取りつつ皇帝が返す。


「殺す理由がない」


『お前を殺そうとした』


「だからと言って、殺すほどではない」


『ランベルト大帝ともあろう者がか?』


「……酷い言われようだ」


『何を今更』


 ――少なくとも、死ねばアイツの下へは行ける。


『無実の者を殺し続けて来ておいて――』


     *


「そう言えば君、名前は?」


 と、奥の間へと走りながらフラウスが訊いた――抱きかかえた方が早いかなあ……。


『……キムです』


 それでも少年の手を必死に握ったまま少女は応える。


「キム?下の名前は?」


『キム=アイスオブシディアンです』


     *


「あら?ライリーさん一人?」

 と、ランダム教授が訊き、


「あ、いえ、Bも居ますよ?」


 と、スス塗れの手を拭きながらストーン女史は答えた。


「エンジンの改造を手伝って貰ってたんです」


 すると教授は、少し怪訝そうな顔になって、


「キム博士は一緒じゃないの?」


 と訊き、


「あいすおぶしでぃあん博士ナラ第三工場ニ行キマシタヨ」


 と、こちらもスス塗れの身体でMr.Bが答えた。


「工場長ニ相談ダッテ」


     *


『あら、二人一緒とは丁度良いですね』と、奥の間手前で“黒の少女”が言い、


「あなたはTPの?」と、フラウスは応えた。


『TP?違うわよ、この前会い損ねたでしょ?キムよ、キム=アイスオブシディアン』



(続く)

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