第三週:タオルとスプーン(水曜日)
先ず、ブレスレットのリミッターを外す。
これでボックスでの時間移動とその後のドタバタで狂ったブレスレッド本体の座標を気にする必要はなくなった――これに12秒。
次に、落ちても大丈夫そうな場所を探す。
落ちて行く先は針葉樹が大勢を占める大きな森であったが、その中ほどに、飛び込むには丁度良さげな小さな池が見えた。手動でそこを行き先にセットする――これにも12秒。
後は、ブレスレットの起動を待って亜空間に飛び込むだけである――これには3秒。
この落下の具合から考えるに、この惑星の重力加速度は博士の故郷 (地球)とほぼ同じぐらいである。ボックスのいた高度を6km、空気抵抗は無視して、博士の体重を (*検閲ガ入リマシタ)kgと仮定すれば、地上までは大体…………35秒ほど?
『――その計算に私の体重関係あります?』
落ち始めた博士がこのアイディアを想い付くまでに7秒ほど掛かっていて、その前の時間停止が4秒ほどあったから…………、
『なあんだ、5秒以上も余裕があるじゃ――』
と、彼女が想ったその瞬間、そこに大きなモミの木はあった。
『な、な、なんで?』――それは昨日頂いたお便りの通り。
バササッ。
ミシッ。
メキッ。
「きゃあ!」と、博士が叫び、
ボキッ。
ミキ。
メキ。
「ブレスレット!!」と、博士が叫んだ直後、
ポッ。
キュ。
ヒュ。
と云う音がして、そこで博士の姿は消えた。
と思うと今度は、
ブッ。
グッ。
シュ。
と云う音がして、彼女は、さきほど見付けた小さな池のすぐ真上に姿を現し、そして、
ボッチャン。
と、体重 (*検閲ガ入リマシタ)kgの物体が 《女神たちの滝つぼ》に落ちる音がした。
(続く)