第三十二週:露台と空席(水曜日)
「では、もう一度繰り返してくれ」と、やたらに大きな鼻の頭をこすりながら男性が言った。「先ずは、フェテス君から」
時間は一週間ほど遡り、ここは“黒の少女”と“シズカ”が“穴の中”へと引き戻されて行った直後の 《アナーク・プラネタリウム》である。
「早くしてくれ、騎士なり警士なりが来る前にこの場を離れたい」と、男性。「どうやら、目も見えるようになって来たしな」
「ええっと、それじゃあ」と、その言葉に続く形で先ずはフェテスが、
「三人でプラネタリウムに遊びに来ていたんだけど――」と言い、
「途中でフェテスの気分が悪くなっちゃって――」と、エリシャが続ける。
それから今度はフラウスが、
「そ、そこ、そこ、そこで、エ、エリシャさんーが、フェ、フェテス君をお手洗いに連れて行って」と、行きつドモりつしつつ言い、
「そしたら実際、ロビーの扉がバンッて――」
「急に吹き飛んじゃって――」
「ば、ぼく、わたくしはうえーの方にいたったの、いたっら、無重力装置が切れーて――」
「ビックリしたよね実際、片手でつかまってるんだもん――」
「そこで外の階段伝いに上に上がって――」
「ふ、ふた、ふたリ二人で僕を引き上――」
と、ここまで言ったところで男性が、
「なにか不審なモノやヒトは見たか?」
と、少し苛立ち気味に訊いて来たので、
「ううん」と、フェテスが答え、
「バタバタしててそれどころじゃ」と、エリシャが続け、
「ぼーくは、えーっと――」と、ウソが吐けないキャラのままフラウスが言ったところで、
「やっぱり記憶を消した方が早いんじゃねえか?」と、捕光ネットから出て来た光型知性体が言った。「ジイさんなら簡単だろ?」
(続く)




