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第三十一週:新しい声と冬のカモ(金曜日)

「ワァッハッハッハ!!」


 と、ふたたび皇帝の呵々大笑が皇帝広間全体に響き渡った。


「しかしそれは、そのドギーとウルプレックスには可哀想なことをしたかも知れんな」


 と皇帝が言うとフェテスは、


「だから実際、時々夜中に連れ出してあげてるんです」


 と、悪びれもせずに言った。


「ね?エリシャ?」


 と、話を振られて困ったのは、緊張状態マックス継続中のシャ=エリシャ嬢である。


 彼女は今回、まさか皇帝の真横の席に座らされるとは想ってもいなかったため、普段の十分の一も食事が口を通っていないのである。


 なので……、


「う、うん、あ、いえ、はい、ええ、そうですね、フェテスさん」


 と、いつもとまったく違った口調で彼女は返事をし、


「なんだよ、その変な喋り方」


 と、フェテスに突っ込まれることになる。


「全然食べてないし――お腹でも痛いの?」


「そんなことありませんわよ、フェテスさん」


「いつもは僕の倍は食べるじゃないか」


「いつもはいつもですし、そもそもそんなに食べられませんですことナリよ」


「だから、なんでそんな変な喋り方――」


 と、フェテスは更なる追及を始めようとしたのだが、するとそこに、


「食事が口に合いませんでしたかな?エリシャ嬢?」


 と、我らが皇帝が割って入る。


「料理長の助言もあってカモは揚げ焼きにしたのだが、もう少しさっぱりとした味付けの方がお好みでしたかな?」


「あ、いえ、そんな」と、エリシャ。「あの、その、とても美味しかったでゴザイマす」


「そうですか?もし苦手なものが入っていたりなどしたらはっきり言って頂いて構いませんよ?今日の主賓はお二人なのですから」


「あ、いえ、その……カモは大好物です」


「なら良かった。この時期のカモも良いが――ああ、そう、それで想い出した」


 と皇帝は言うと、


「少しばかり、昔の話をしてもよろしいかな?」


 そうエリシャに訊いた。


 すると訊かれたエリシャは、


「え、はい、もちろん」


 と、いくぶん緊張が解けた口調で応えた――陛下の声がお優しい。


「これは私がまだ若く各地を旅していた頃の話ですが、イン=ビト王の 《ニヘナ》に参加させて頂いたことがあったのです」と、皇帝。


「《ニヘナ》?」


「まあ、我々で云う収穫祭のようなものですが、彼の地では、これを冬の一番寒い時期、それも深夜に行うのです」


「それは、街のみんなで?」


「いやいや、これは王家の儀式だそうで、私のような例外を除けば、基本は王を中心とした一族の者十数名だけで行うそうです」


「なるほど、私たちのとは違うんですね」


「その日は薄曇りで星明りもなく、小屋の四方に立てられた篝火だけが暖であり灯でした。

 私は木製の盾と矛を持って西方を護り、小屋の中からは王の祝詞、目前には茫漠たる闇。

 それが深夜から明け方まで続き、誰も何も言いません。最初明瞭だった王の祝詞も時が経つに連れ徐々に弱々しくなって行きます」


「イン=ビト王が?」と驚いた声でエリシャ。


「堅牢強固の流石の王も民や祖霊の想いを一身に受けるのは大変なのでしょう」と、一瞬だけ孫の方を見詰めてから皇帝は続ける。


「そうして夜が明け、祝詞の最後の一節が終わるか終わらないかのころ、どこからともなく大変良い匂いがして来たのです」


「匂い?」


「冬ガモの雑炊でした、奥さま特製のね」


「ああ、」と、ここでエリシャは嘆声し、


「あの時、皆で食べたカモの味、あれは忘れられません」と、皇帝が微笑み言ったので、


 グーッ。と、エリシャのお腹が鳴った。


「今度は是非、冬ガモを食べにおいでなさい」


 と、みたびの呵々大笑が広間全体を覆った。



(続く)

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