第三十一週:新しい声と冬のカモ(木曜日)
「《見主》にならば私も一度会ったことがありますよ」と、少々赤くなった顔で皇帝が言う。「ことある毎に口ごもるのが気になりましたがな、全体として気の良い連中でした」
すると、この皇帝の言葉に驚き返したのはローベルト・モールトンである。
「いやはや、流石は陛下」と、こちらはこちらで酒と緊張で顔も頸も真っ赤だが、それに気付く余裕すらないようである。「《見主》と言えば大の知性体嫌いで有名、研究者でも会った者は数えるほどしかおりません」
ちなみに、《見主》と云うのは、『どんなに詳しく予知してもどうせ誰も信じてくれない』と云う未来すら予知しまくっているせいで、せっかくの予知を種族以外門外不出にしているあの人達ね。(第十一週の月曜日参照)
「一体、どのようにしてお会いになったのですか?」と、教授が訊くと皇帝は、
「いや、なに」と、まるで数ある雑事の一つでも想い出すかのように、「彼らの預言だか予知だかの実現に私が必要だったそうで、彼らから会いに来たのですよ」と言って笑った。
それから、
「預言や予知と言っても放っておいては実現せぬ物もあるらしく、そう云う場合は自ら動いたり他人を動かしたりするのだそうです」
と続けると、ここで少し言葉を切ってから、デザートの“ミヤザキマンゴーとオカヤマハクトウのパイケーキ”を前に目を輝かせている左席の少年の背中を軽く撫でつつ、
「そうだろう?フェテス君」と、訊いた。
すると訊かれた少年は、
「そうですね」と、モモの部分から食べようかマンゴーの部分から食べようか逡巡しつつ、
「この前もJJJの人たちの集会をメチャクチャにしたんだけど」
と言って、例のドタバタについて話し始めた。
――うん。やっぱり両方一緒に食べよう。
(続く)




