第三十一週:新しい声と冬のカモ(水曜日)
「なら、首なしの私の像も見たのかね?」
と、フェテス少年に訊いて来たのは、当の像のモデル、ランベルト大帝その人であった。
「どうだった?変わらず男前だったかね?」
すると、この質問に対して少年は、
「顔の部分がなかったんで男前かどうかまでは分りませんでしたけど――」
と、正直に……と云うか、目の前のエンキドゥ・コガネガモの揚げ焼きに心を奪われたままに応えた。
「持ってる盾と剣はすっごくカッコ良かったです――あと、このパリパリッとした皮が最高に美味しいですね、実際」
すると、このフェテス少年の返答が余程気に入ったのだろうか皇帝は、
「ワァッハッハッハ!!」
と、宮殿広間全体を震わすほどの呵々大笑を持って応えると、
「そうだろう、そうだろう、あの剣と盾はイン=ビト王と共に戦った時にも持って行った気に入りでな――ああ、おい、少年にカモの代わりを」と言って、再び笑った。
そうして今度は、
「いやはや、こんなに楽しい晩餐は久しぶりじゃ」と言ってから、円卓の向う側に座る孫に向けて、「良い友を持ったな、フラウス」と、続けた。
この夜の食事会への出席者はごく少数であり、皇帝家特有の円卓に設けられた席はたったの八席。
先ずは皇帝を主席として、その左右に“孫の恩人”であるフェテス少年と緊張感マックス中で食事も喉を通らないシャ=エリシャ嬢。
それから次に、彼と彼女の“保護者枠”として招待されたモールトン教授とアーロン・オクスフッドの伉配がそれぞれの隣に座る。
それから教授の隣に空席が一つあって、丁度皇帝の真向かいがフラウス、そしてその左隣りには彼の母ファウスティナが座っていた。
(続く)




