第二十九週:無限と修道士(水曜日)
で、さて、えーっと、なんだったっけ……?
え?
なに?
「この長々とした科学の歴史講義が本編とどう関係してくるのか?」って?
えーっとね、もうちょっとで関係してくるハズなのですが……すみません。もう少しだけお付き合いのほどよろしくお願い致します。
で、さて、えーっと、あー、そうそう。
と、云うことで、ヴ〇チカンによる『ビッグバン理論は創世記の記述を裏付けている』と云う公式声明が出ちゃったんだけど、これに大変な危惧を抱いたのが、例の修道士の先生だったんだよね。
*
「良いですか、顧問?」
と、教皇の科学顧問に真剣な眼差しを向けながら、件の修道士は言った。
「我々の聖典は、物理学に関しては何も知らないのです」
ここは当時の地球で大勢を占めていたとある宗教の総本山であり、この修道士が所属する団体の……まあ、企業で言うところの本社中枢部みたいなところである。
で、まあ、そんな場所に乗り込んで自分の所属団体のトップが出した結論を引っ込めさせようと云うのであるから、この修道士に取っては、自分のクビと云うか修道士生命を懸けての説得であったであろう。
が、しかし、彼には
『信仰と科学を混同してはいけない』
と云う確信と信念があった。
「また、我々の聖典が物理法則については何も知らないのと同様、物理学も、神の愛については何も知らないのです」
*
で、と、まあ、そんなこんなで、彼の説得が功を奏したかどうかは定かではないけれど、この後教皇庁は、二度とこの件について触れることはなくなり、おかげでカト〇ック教会は赤っ恥を掻くことを免れたのである。
そう。
皆さまご存知のとおり、ビッグバンは“本当の始まり”ではないからね。
(続く)




