第二十八週:汗と涙と膨張と収縮(金曜日)
さて。
と云うことで突然だが、ここで少し古い話をしておきたいと想う。
が、まあ、古いとは言っても西暦に直せば1927年から始まるお話なので、これを読んでいる読者の方々にしてみれば、たかだか100年ぐらいしか変らぬ時代のお話であり、時空を行ったり来たりしているこの物語の中では比較的現実味のあるお話だったりするので、うーん?ま、気軽に聞いてみて下さい。
そう。
お話の始まりは、ある地球の修道士が、アルベルト・アインシュタインと云う名の理論物理学者が発表したとある方程式を研究していた時点にまで遡る。
「あれ?」
と、ある日、その修道士は、ペンを持つ手を止めると、こう呟いた。
「宇宙って膨張 (又は収縮)していない?」
あ、そうそう、一応お断りしておくと、このお話の舞台は我らが野蛮惑星 《地球》で、当時の銀河でも平均的文化レベルの惑星なら初等教育で習う 《宇宙の膨張 (又は収縮)》についても殆んど全く知られておらず、件の方程式を作成した当の理論物理学者ですら、
「宇宙ってのは不変だろ?」
と想い込んでいたような文化レベルだったりする。
ま、であるからこそ、この理論物理学者は、自身の方程式が導き出した結論をなかなか受け付けられず、それとは逆に、彼の方程式を真剣に受け止めたこちらの修道士は、当時ようやく手に入りつつあった銀河の観測データを収集し始めることになるワケだ。
で、そうして集めたデータからこの修道士は、
「あら、やっぱり膨張しちゃってるなあ、宇宙」
と云う確信を抱くことになるんですね。
と云うか、もっと言えば、この二年後の1929年にはレヴェットとハッブルと云う二人の天文学者が、それぞれ別の方法により、
『宇宙って膨張してるんだよ』
ってことを実証したりして、先述の理論物理学者の思い込みを揺るがしたりすることになったりもする。
(続く)




