第二十七週:終わらぬ戦と飲酒癖(水曜日)
「学校長がワシを?」
と、夕食用にと始めた麺をこねる手を止め、ス・イゲイは訊いた。
「酒ならこのとおり断っておるぞ?」
が、そう言う彼の口からは明らかに柑橘系醸造酒の香りが漂って来る。ここは、イゲイが長を務める 《サ・ジュジ騎士学校》第一厨房である。
「あ、いえ、お客さまが来られているようでして」
と、そう答えたのは、この春、この騎士学校に来たばかりの我らがシャーリー・ウェイワード嬢であった。
「別に先生の飲酒癖のことがどうこうと云う話ではなさそうです」
が、この通り、彼女の気の強さに変化はないようである。
なるほど。流石の 《ウー=シュウの大虎》も、面と向って確かな声で“飲酒癖”と言われてはバツが悪い。
「お主、名前は?」と、少し語気を強めてイゲイ。
すると、
「ウェイワードです」と、少しも臆せずシャーリー。「シャーリー・ウェイワードです」
「“ウェイワード”?……見ない顔だが、《ディアン=スウ》辺りの出か?」と、顔は赤いがよく回る頭でイゲイ。
と、それに対してシャーリーは、
「あ、はい。ペイエのフェンジャン、チョアン=リーです」と、少々驚いた顔で応えた。
「なるほど――確かに古いが名門の血だな、賢そうな顔をしておる」
「……はあ」
「だがな、ウェイワード嬢よ、目上の者に対してその悪癖を指摘する際は、もう少し言葉を選んだ方が良いぞ」
「はあ……あ、しかし、」
「どうした?」
「それでは、お酒を飲まれていることはお認めになられるのですね?」
とここで、彼らのやり取りを黙って聞いていた周囲の生徒たちが一斉に笑い出し、イゲイは更にバツの悪い想いをすることになった。
(続く)




