第二十七週:終わらぬ戦と飲酒癖(月曜日)
さて。
と云うことで、その後に起こったことを箇条書きにすると次のようなことになる。
①“シズカ”の放った衝撃波は、何故か、少年の胸部からは大きく外れ、彼の左頬に小さな切り傷を残しただけで、彼の後方へと消えて行った。
②その代わりに、消えて行った衝撃波は、プラネタリムの壁に当たり、周囲に大小の破片を撒き散らすことになった。
③また、丁度その頃、階下の男性と“黒の少女”との駆け引きにも決着が付き、結果は先に事を仕掛けた男性側の勝利に終わった。
④その為、“穴”は収縮を始め、それに合せてフォースフィールドも収縮を開始、“黒の少女”と“シズカ”、それに彼女たちに巻き込まれる形でフラウス少年をも“穴”に引き込もうとした。
⑤が、それに先んずること十数秒――と云うかこの際時間は関係ないとも想うのだが……つまりは、少年と“シズカ”が上層階から落下を始めた直前、この事態を“予知”した少年の身体は、相手と戦うのではなく、相手を抱き締めるべきとの選択を行っていた。
⑥そうして、その彼の身体の選択通りに落下ルートは変更され、更には“シズカ”の衝撃波で撒き散らされた破片――その中でも特に大きな破片が、フラウスの代わりに“穴”に引き込まれることになった。
そう。
フラウスの身体が“予知”していた『自身が“穴”に引き込まれる 《未来》』は、その身体自身が時間を 《フライング》することで、既に回避されていたのである。
*
ジジジジジ。
と云う珍妙な音がして、ラチェットレンチが“穴”のあった辺りを走査し始めた。
「大丈夫か?」と、まだモヤモヤとする視界のままに男性が訊き、
「ええ、なんとか」と、フラウスは答えた。「身体はなんともないですし」
「……どこまで分かっているんだ?」
「……なにをですか?」
「普通、こんな状況で“なんともない”ってのはよっぽどのことだろう?」
「あ、まあ……運が良かったんですかね?」
「あのな、少年――」
と、男性が話を続けようとしたところで、
チッチキチー、
チッチッチ、
チーーン。
と、レンチが一層珍妙な音を立てたので、この会話はここで中断されることになった。
「すまないが、目盛りを見てくれないか?」
と、フラウスの方にレンチを向けながら男性。
「ヤツらのせいでまだよく見えないんだ――丸い部分の数字と色を教えてくれれば良い」
「これですか?」
と、その珍妙な道具を覗き込みながらフラウス。
「緑の……73です」
「そうか――」
そう言うと男性は、やっと安心したのだろうか、その場にへたり込むと、
「いやはや、久々に疲れた」
と言った。
(続く)




