第二週:コーギーとテリア(金曜日)
星団歴4235年。春分。満月の日曜日の夜。
七才になったばかりのフラウス・プラキディウス・ランベルトは、祖母の家を抜け出し、フシュ=ジェの森の探索に出掛けた。
祖父譲りの好奇心がそうさせたのか、それとも何がしかの啓示を受け取ったのか、それとも誰かに唆されたのかは分からないが、母も祖母も不在の今夜がほぼ唯一のチャンスであったのは確かであろう。
彼の目的地は森の奥――地元の者が 《女神たちの滝つぼ》と呼ぶ、今は涸れた滝を抱える小さな池であった。
*
「オイ、博士ガ落チタゾ!」と、不定形生物Mr.Bが叫び、
「博士なら大丈夫よ!」と、赤い髪の女性が叫び返した。「ボックスを安定させないと、私たちの方が危ないわ!!」
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「これは…………困りましたね」と、空を落ちながら博士は独り言ちた。
彼女のボックスが飛んでいたのは高度6~7km付近。通常のスカイダイビングの相場が1~4kmだから、その倍ほどの高さから投げ出されたことになる…………し、下は険しい森のようだ。
「エプロン…………は、コンパネの横に置きっ放しでしたね」
そう彼女は呟くと、地面衝突までの時間を割り出そうとしたが、この惑星の重力加速度を知らないことに気付いて止め、その代わり、
「タンク・サブシスト・パルクラ・エス」
と、胸元のペンダントに語り掛け、四秒程度――と、止まった時を数えるのも妙な話だが、彼女以外の時を止めた。
そうしておいて次に彼女は、『元々は重力遮蔽用の石なんですよね?』と、落下防止の呪文でもなかったものかと想い返してみたのだが……
『――なんでないの?』と、このペンダントの元の持ち主の杜撰さを改めて呪うこととなった。
『うーん。どうしましょう?』
(続く)