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第二十六週:身体と脳とフライング(木曜日)

「《フライング》ってなんですか?」


 と、そう訊いたのは、幼き日の、未だ 《血》が現れていない時代の六祥・シズカであった。


 すると、この問いに対し、


「どこでそんな言葉を訊いた?」


 と、(質問に質問で答えちゃホントはダメなんだが)訊き返したのは、《ウー=シュウの鯨海酔候》こと守帥・イゲイであった。


「学校の授業で言われたんです」と、シズカ。


「運動か?武術か?」と、イゲイ。


「運動です」


「運動と武術の教師は別のヤツか?」


「はい」


「ああ、なるほど」


 と、ここまで言ってイゲイは、口元に若干の寂しさを感じたのだろう、懐中にしまってある二相ステンレス鋼の……まあ、その、あれだ、“気分を紛らす何かの液体”入りの小瓶を取り出すと、


「ちょっと待てよ……」


 と、考えるフリをしつつ、その度数のやたら高い“液体”を二くち三くちと口に含んだ。


 そうして、それから彼は、


「よしよし」


 と言うと、その滑らかになった口で、


「それは、《運動》の教師がお前を責めたと云うことだな?」


 と、続けて訊いた。


 すると、


「そうです……」と、恥ずかしそうにシズカは答え、


「よいよい、気にするな」


 と、イゲイは笑って返した。


「お前の速さが、その教師には速過ぎるように想えただけじゃ」


 東銀河帝国との国境紛争で彼が亡くなる丁度三ヶ月前のことであった。


     *


「ビビッたワケじゃなさそうね」


 と、先ず、“シズカ”は自分の考えを改めるところから始めた。


 それから、


「にしては、手にも腕にも殺気がないけど」


 と、また間違った考えを起こしそうな自分に気付き、


 と同時に、


「《ウー=シュウ》のコクン頭に似てんのかな?」


 と、少女の頃に別れた切りの、もう一人の師のことを想い出していた。


「なるほど」


 自らが発する“和気”により相手の身体の“殺気”……と云うか“やる気?”を殺ぐのがあの師匠の得意であった。


 この少年がどれ程の使い手かは分からぬが、あの師匠のソレに比べれば、抗えないレベルではないだろう。


『ごめんね、坊や』


 と“シズカ”は囁くと、先ずはあばらを、次には肩甲骨の位置を換え、自分を抱き締めて来るフラウスとの間に僅かな隙間を作り出した。


『お姉さん、その技には免疫あんのよ』


 それから、その作ったばかりの隙間を利用し身体を小さく揺さぶると、


『これ位あれば十分なのよね』


 と、ソッと両手を十字に組んでから、少年の胸部目掛けて、フッと離した。


『クースラポリの義憤!』



(続く)

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