第二十五週:踏み台と抱擁(金曜日)
「なるほど」
と、“シズカ”は――今度は確かに――想った。
「一緒に落ちれば五分になると想ったワケね」
確かに。
流石の彼女であっても、一回の跳躍だけで、“標的を仕留めつつ”プラネタリウム下層から上層に上がることは困難である。
その為、当初の彼女の計画では、一回目の跳躍で先ずは“標的”――奇妙な道具を持つ少年――の腕を断ち、その反動で更に飛び、歩廊へと降り立つつもりであった。
「それから、じっくり捜せば良い」
が、そこに別の少年が現れ彼女の右の手首をつかんだ。
何故“つかんだ”かまでは分からないが、であれば、今度はこの少年を“踏み台”にするまで。
「ついでに潰しておこっか」
そう。
それが先ほどの左足つま先による彼女の蹴りへとつながるのだが、先述した通り、これが彼女の“一つ目の”誤算であった。
彼女の蹴りを受けるにせよ避けるにせよ、結果“踏み台”にされることに変わりはない。
それよりは、自身も空中に踊り出せば、その後のことはどうであれ、少なくとも“踏み台”にされることはない。
「お友だちと私を引き離せられるしね」
と、そのように“シズカ”と彼女の身体は考えたのだが、もちろん、これが彼女の“二つ目の”誤算であり、常に戦いに身を置いて来た者の犯しがちな計算違いでもあった。
何故ならこの後フラウスは、つかんだ“シズカ”の手首を潰そうともしなければ、空いている右手や両脚で彼女を撃とうともしなかったからである。
「ビビってんの?」
と、“シズカ”はまた勘違いをし、左の肘で彼の顎を打ち抜くため、つかまれた右手首を自身に引き寄せようとした瞬間、彼女は自身の誤算にやっと気付いた。
彼女のそれより一瞬早く、彼が彼女を抱き締めて来たからである。
(続く)




